7: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/12/10(月) 00:47:56.25 ID:/688KgEE0
いつかの彼女の言葉を思い出す
『漫画には、どうしても出来ないことが多いんスよ』
原稿を手伝っているときに聞いた言葉だった。彼女が愚痴のように溢したものだった。どうしてこんな時に思い出したのだろう、という疑問には、記憶がすぐに答えを出した
『紙……最近は電子書籍も増えてまスけど、二次元には変わりないので。表現の幅が限定されちゃうんス』
休憩ついでに、体を伸ばしながら、彼女は言葉を紡いでいく
『漫画で伝えることが出来ないのは、匂いと、音と、感触、それから温度なんスよ』
……正直、初めて聞いたとき、僕はその言葉を理解していなかったと思う。でも、今なら、その言葉の真意を読み取ることが出来る気がする。
僕が漫画を描けるとしても。画力や文才を持っているとしても。
今のこの感情だけは、決して誰にも伝えられないのだ。
安いシャンプーの匂いも、靴裏の音も、喉に残った牛乳の感触も、この愛おしい寒さも。
僕はきっと、これらを言葉と絵を使っても、何一つ伝えることが出来ないのだ
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