【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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9: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/04(火) 21:51:21.84 ID:gOTfw+RA0
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「それでは、次の水曜日に」
そう言って、プロデューサーさんは部屋に鍵を開けると、帽子を取ってお辞儀をして、プロダクションを後にした。
私たち四人は、日が落ちて街灯とビルの光に照らされた薄暗い駐車場で、それを見送る。
「……なんだか、へんなことになっちゃったね」
美穂ちゃんがつぶやく。
「そうだね」私は今日一日を思い出す。「でも、プロダクションもなんだか大変みたいだし、しょうがないよ」
「プロデューサーはああ言ってたけど、あの歳で、しかも芸能界と関係ない駐車場警備員だろ? ほんとにプロデュースできんのか? ユニットデビューさせてくれるって聞いたときはちょっとテンション上がっちゃったけどー……、素人のじーさんだろ? 正直、怪しくね?」
はぁとさんがおどけたように言う。
「敏腕プロデューサーが一人、過労で倒れたという話は本当ね」マキノちゃんが眼鏡をくい、と持ち上げた。「内部でも急な人事異動があったみたいよ。その人が担当する予定だった社内のプロジェクトに代理の人をあてがって、優先度の高い順に担当者がずれて、その結果ね」
「その結果、はぁとたちは優先順位の低いお荷物アイドルだから、プロデューサーが駐車場の警備員のじーさん?」はぁとさんの声には元気がなかった。「……マジかよ」
はぁとさんはぎゅっと拳を握った。しばらく、沈黙が流れて。
私は心が重たくなるような、不安な気持ちになったけれど――でも、当然かもしれない、と思った。私はしばらくオーディションもうまく行ってないし、いまだに「芸能界に居るべきじゃないと思う」って言われたことが心に残っちゃってる。
私も……お荷物、なのかな?
でも。はぁとさんや美穂ちゃん、マキノちゃんがアイドルとして落ちこぼれてるみたいには、私にはとても思えない。みんなとってもかわいいし綺麗だし、私よりずっと――キラキラしてると思うのにな。
「あ、あのっ、マキノちゃん、詳しいんだね? 私、知らなかったな」
美穂ちゃんが明るい声を挙げた。この場を盛り上げようとしてくれたのかな。
「諜報活動が趣味なの。あのプロデューサーのことは知らなかったから、これから調べないと」そう言って、マキノちゃんはふっと妖しく笑った。「私たちも、そろそろ帰りましょう。次の水曜には何らかの方針が出ると思うわ。契約を解除されたわけじゃないんだから、プロデューサーの言う通り、一歩一歩やるしかないわね」
「ま、それもそーだな。帰るか☆」
はぁとさんもそう言って笑った。
駐車場を出る前に、私は立ちどまって、さっきまで居た事務所と、プロダクションのビルを見比べる。プロダクションの高いビルは、今もほとんどの部屋に明かりがともっていて、なんだか都会らしくて、キラキラしていて。
一方で、私たちがこれから通う事務所は、当然だけど私たちが退室したから灯りも消えて、ひっそりとしていて。
「……これから、どうなっちゃうんだろう」
私はぽつりとつぶやいて、それから花壇に咲くお花さんたちをじっと見た。
街灯の光の中で、お花さんたちは昼間と変わらず懸命に咲いていた。
お花さんたちは、それぞれが一輪だけじゃなくて、花壇の中でみんな寄り添って咲いている。誰も見ていなくても、力強く。
「……私も、頑張ろっ」
大丈夫。一人じゃない。だって、新しい仲間ができたんだから。みんなで頑張ろう。
そう自分自身に言い聞かせて、私もプロダクションをあとにした。
1.相葉夕美−Syringa vulgaris :ライラック(友情・謙虚・思い出) ・・・END
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