【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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5: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/04(火) 21:46:33.00 ID:gOTfw+RA0
 思い出した。この人は。

「あの、駐車場の――」

 声に出して、私はそこで言葉に詰まる。

「ん? 駐車場?」

 はぁとさんが不思議そうな声を挙げる。ほかの二人も、私の方を見ていた。

「え、ええと……」

 私が困っていると、ちひろさんがにこやかな顔で後に続いた。

「はい、こちらの方は、美城プロダクションの、駐車場の警備をしていらっしゃいました。これからは、皆さんの担当――」

「ちょ、ちょいちょいちょーい!」はぁとさんがちひろさんの言葉を遮る。「え、いまちひろさん、駐車場の警備って言った? 言ったよね? おいおい、冗談キツいぞ☆ それって芸能関係者でもなんでもなくて――素人じゃね?」

 私を含む全員が、男性のほうを見る。男性は穏やかな顔でたたずんでいた。

「心さん、失礼ですよ」

 ちひろさんが真剣な顔ではぁとさんをたしなめる。

「ちょ……マジ?」

 はぁとさんの声は一オクターブくらい低くなってた。
 その時、男性が一歩前に出る。

「皆さん、突然のことで驚いていると思いますが、よろしくお願いいたします」

 心地いい穏やかな声と、笑顔で、その人は言った。

「あのっ、よ、よろしくおねがいします、プロデューサーさん!」

 沈黙していた私たちのなかで、最初に声を発したのは美穂ちゃんだった。

「よろしくおねがいしますっ!」

「よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」

 私たちもそれぞれ後に続く。はぁとさんはなんだか、茫然自失としてた。

「それじゃあ、部屋に移動しましょう」

 そう言って、ちひろさんはにっこり微笑んだ。


---

「おいおーいちひろさーん、これってプロデューサールームじゃなくて、警備員室じゃね?」

 移動した先、プロダクションの敷地内駐車場の一角にある警備員さんの詰め所で、はぁとさんはちひろさんにツッコミを入れた。……さっきよりちょっと、元気がないみたい。

「仕事に必要な道具は運び込んでありますよ」

「そういうことじゃないっしょー……☆」

 がっくりと肩を落とすはぁとさん。

「すいませんね、みなさん。私がこちらのほうが落ち着くものですから」

 プロデューサーさんが言う。

「それでは、私は業務に戻りますので、これで」

 ちひろさんはプロデューサーさんにそう言うと、深く丁寧にお辞儀をして、部屋から出て行ってしまった。

「ふむ」プロデューサーさんは私たちを見回す。「まずは皆さん、かけてください。椅子が不ぞろいで申し訳ない。お茶を淹れましょう」

 私は部屋を見回す。八畳くらいの部屋には書棚がいくつかと、シックな茶箪笥がひとつ。会議室にあるような長机が二つ。そこに折り畳みの椅子が並んでる。背もたれの有るものとないものがあって、机の上には一台のノートパソコン。部屋の隅に『事務用品』と油性ペンで書かれた段ボール箱が二つ重なってた。




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