【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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4: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/04(火) 21:44:36.09 ID:gOTfw+RA0
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「ちっひろさぁーん! はぁとの新しいプロデューサー、どうなってんすかー?」
翌々日、約束の時間にプロダクションの打ち合わせ場所を訪れ、ドアを開けようとした私は、部屋の中から聴こえてくる芝居がかった黄色い声に、一瞬固まった。
そろそろとドアを開けてみる。中には女性が四人。緑色のスーツを着た三つ編みの女性は、プロダクションの事務員、千川ちひろさん。表舞台には上がらないけれど、プロダクションの顔のような人で、社員と所属するアイドルたちでちひろさんを知らない人はいないくらいの有名人。
あとの三人はちひろさんの方を見ていて、後ろ姿だからちょっと自信がないけど、さっき声をあげていた人は知ってる。ツインテールのちょっと背の高い人は、佐藤心さん。かなり個性的なキャラクターのアイドルで、顔と名前は一致するけれど、一緒にお仕事をしたことはない。
ほかの二人は、はじめまして、かな?
「ええと、佐藤さん、ちょっと待ってください……あ、相葉さん、こんにちは」
「こんにちはっ!」
ちひろさんが私に気づいて挨拶をしてくれたので、笑顔でお返事。部屋のなかのみんながこっちを振り返る。みんな、不安そうな顔をしてる。
「これで、みんな揃いましたね」
ちひろさんが微笑む。
「これから……皆さんの担当者をお連れします。もう少しだけ待っていてくださいね。それまで、お互いに自己紹介の時間ということで」
そういって、ちひろさんは部屋から出ていっちゃった。
残された私たち四人は、それぞれに顔を見合わせて。ほんのちょっとだけ、沈黙。
「えっと!」こういうときは明るくしなきゃ! と思って、私は声を挙げた。「とりあえず、はじめましてだし、自己紹介します! 相葉夕美って言います、よろしくお願いします!」
「あっ、わたしは!」黒のショートヘアに、印象的なくせっ毛が飛び出してる女の子が続いた。「小日向美穂です、その……よろしくおねがいします!」
美穂ちゃんは一生懸命で丁寧、性格も真面目そう。なんだか安心。
「えーっと」心さんが困ったみたいに苦笑いしてる。「なんのために集められたんだかわかんないけど、ちひろさんがああ言ったってことはー、とりあえずこのメンバーでなんかするってことかー? えっと、しゅがーはぁとのことは、はぁとって呼んで☆」
心さんはぺろっと舌を出して、ばちんって音がきこえそうなウインク。美穂ちゃんがきょとんとしてる。私も、キャラクターの強さに押され気味。でも、これがキャラが立ってる、ってこういうことなのかも。
「……八神マキノよ。よろしく」
長くて艶のあるロングヘア―の女の子が、眼鏡の向こうから真剣な目でこちらを見ながら、静かに挨拶した。
立ち姿はとってもスタイルが良くて、オトナっぽい。でも、学校の制服を着てるってことは、私より年下なのかな。
「……」
ひととおりお互いの名前を伝えて、そのまま沈黙。お互いに状況がわからないから、しょうがないよね。ちょっとだけ空気が重たくなりかけたところで、心さん……はぁとさんが部屋に備えられたチェアに腰を下ろした。
「ま、これから何するかわかんないのに、落ち着いておしゃべりしてらんねーよな☆ プロデューサーが来るまで大人しく待っとけ待っとけ♪」
「……賛成するわ」マキノちゃんがそれに続く。「必要なことは自分で調査すればいいのだし」
私と美穂ちゃんはお互いに顔を見合わせて、どちらともなくチェアに腰かけた。
それから一分くらい経ったころ、部屋の扉が開き、私たちは一斉に立ち上がる。
「皆さん、お待たせしました」
ちひろさんが入ってきて、その後ろからすらっと背の高い、スーツとハットを身に着けた落ち着いた雰囲気のおじいさんがゆっくりと入ってきた。
……あれ。
私の頭の中に、何かがひっかかったような気がしたけど、それが何なのかわかる前に、ちひろさんが続ける。
「こちらのかたが、みなさんの担当者です」
紹介されて、男性はハットをとると、ゆっくりとお辞儀をした。
「おおう、ロマンスグレー……☆ ってぇ、ちひろさん、こちらのおじい……オジサマは――」
はぁとさんが探るようにちひろさんに問いかける。それもそのはず、この人は私が今まで観てきたどんな芸能関係の人よりも、芸能から遠い雰囲気。アイドルと直に接するプロデューサーさんは、体力仕事が多いこともあるのか、もっと若い人がほとんど。そのあとは出世して幹部になったり、直接アイドルに関わらないところに異動になったりするみたいだし、社内にこんな年配のプロデューサーさんが居たなんて聞いたことがない。
でも、ちひろさんはにっこり笑って頷いた。
「ですから、みなさんの担当者です。これからみなさんはしばらくのあいだ、このかたの指示の下で活動してもらいますね」
言われて、もう一度おじいさんは軽く会釈をした。――そのとき。
「あっ!」
私は思わず声を挙げていた。
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