【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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19: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/08(土) 00:28:42.57 ID:1bCRB9ws0
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「うん、いいねー、ちょっとだけ顔を右に傾けて、そう。じゃ、撮るよー、くるみちゃん、笑ってー」
シャッターの音が連続する。
「はうぅ、はずかしいよぉ……」
「大丈夫、くるみちゃん、こっち向いて! すっごくかわいいよー! はい!」
更に連続してシャッターが切られる音。くるみちゃんはスタイリストさんに用意してもらったフリルワンピース姿で、カメラマンさんの様々な指示に一生懸命に答えていた。
「ふええ、くるみ、うまくできない……ごめんなしゃい……」
指示に上手く応えられずに、くるみちゃんの目じりに涙が光った。カメラマンさんはいいよ、泣かないで、と言いながら、涙目のくるみちゃんを容赦なく撮影していった。泣き顔も魅力的だもんね。私も内心でカメラマンさんに同意するけれど、くるみちゃんにはちょっと気の毒かな。
しばらくのあいだ撮影が続いて、納得のいくショットが撮れたのか、カメラマンさんは満足そうに終了を宣言した。
「ほら、くるみちゃん、これがいま撮った写真だよ」
カメラマンさんはくるみちゃんを呼んで、デジタル一眼レフカメラの液晶画面を見せる。くるみちゃんが画面を見て目をぱちくりさせていた。
私と美穂ちゃんもくるみちゃんの後ろから画面をのぞき込む。
「あ、くるみちゃん、かわいい!」
美穂ちゃんが先に嬉しそうな声をあげた。
「うん、お姫様みたい!」
「うぅ……へんじゃないかな?」
くるみちゃんは口元を緩ませて嬉しそうにしながら、両の手で恥ずかしそうに自分の胸元を押さえた。撮られた写真はくるみちゃんの大きな胸も魅力的に映し出されている。
「クラスの男の子に見られたら、またバカにされるよぉ……」
くるみちゃんが弱々しく言ったので、私と美穂ちゃんとカメラマンさんはお互いに一瞬、視線を交わす。
「大丈夫だよ、自信もって! 美人さんだよ、くるみちゃんは」
カメラマンさんが励ますけれど、くるみちゃんはまだ不安そう。
「えっと……」美穂ちゃんがしゃがみこんで、くるみちゃんの顔を見上げるようにする。「私も、最初はすっごく恥ずかしかったんだ、短いスカートもなんだか怖かったし、写真にとられるのも苦手だった。いまも、ちょっと恥ずかしい、かな。だけど、恥ずかしくても少しずつ前に進んでいくと、ちょっとずつ恥ずかしがりやの自分から変われる感じがするの。それが、とっても楽しいんだ。だから、一緒に頑張ってみようよ」
美穂ちゃんの言葉を聞いて、くるみちゃんはちょっと迷っていたみたいだけれど、やがて、ひとつ頷いた。
「よかった!」
私はくるみちゃんの手をとって、ぎゅっと握る。
「くるみちゃん」カメラマンさんがくるみちゃんの前に立つ。「くるみちゃんはいま、大人に向かってどんどん身体が成長してるんだよ。男の子も女の子もみんな、そういう時期がある。変わっていく順番はばらばらで、あっちこっち急だったりするから、くるみちゃんも慣れなくてびっくりすると思う。でも、ほかの誰でもない自分の身体だ。くるみちゃん自身が大事にして、一緒に大人になっていくんだ。それは怖がったり恥ずかしいことじゃなくて、とても素敵な事なんだよ」
カメラマンさんはくるみちゃんの全身を撮った写真をくるみちゃんに見せる。
「くるみちゃんがアイドルを続けていれば、これからもどんどん新しい写真が増えていく。そのたびに、変わって大人になっていく自分にわくわくできると良いと思う」
そう言って、カメラマンさんはやさしくくるみちゃんに微笑みかけた。
くるみちゃんは自分の写真を、心にしっかり刻み付けようとするみたいに、じっと見つめていた。
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