【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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18: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/08(土) 00:27:27.44 ID:1bCRB9ws0
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「それで……」マキノちゃんが机の上に置かれたプロフィールシートを揃えて、クリアファイルに戻す。「このシートの子、大沼くるみちゃんは、私たちのユニットに参加することになった、ということね」

「うんっ! プロダクションの人が親御さんにもちゃんと説明をしてくれたんだって。決心してくれたみたいでよかった! 自信をもってくれるといいなあ」

 私は言いながら、自分で入れたお茶を一口。プロデューサーさんのほうがいい茶葉をつかっているのか、期待したほどの味を出せていない。
 あれから、くるみちゃんのお母さんからプロダクションに連絡があって、くるみちゃんはアイドルとして私たちと一緒に活動していくことになった。とんとん拍子で私たちとの顔合わせまで済んでいる。
 今日の事務室は私とマキノちゃんの二人だけ。プロデューサーさんは打ち合わせ、はぁとさんはレッスン。美穂ちゃんはくるみちゃんを連れてプロダクションの中で新しい所属アイドルとしての登録手続き中。

「……妙ね」

 マキノちゃんは口元に手を添えて、なにかを考えているみたいだった。

「妙って、なにが?」

「プロデューサーのことよ。元は駐車場の警備員で、プロデューサーとしての経歴はないはず。なのに出かけた先でいじめられていた女の子を独断でスカウトして、私たちが予定しているユニットに登録。どうして、プロダクションはそれを認めたのかしら。たしかに、この子は写真やプロフィールを見る限り、十分に魅力はあると思う。でも、いきなりスカウトなんて無茶よ。ふつうなら、オーディションを勧めるくらいにとどめるわ。」

「そういえば……」

「プロデューサーについて調べてみたけれど、警備員としての情報以外は見つからないの。社内の人にそれとなく聞いてみても一緒。古くからこのプロダクションで働いてはいるみたいだけれど……」

 そのとき、プロダクションの扉が開いて、美穂ちゃんとくるみちゃんが戻ってきた。

「ただいまもどりました!」

「ただいま、もどりましたぁ」

 ふたりは椅子に座る。私は二人の前にお菓子の袋を寄せ、電気ケトルのお湯を急須に注いでお茶の準備をした。

「あっちこっち手続きばっかりで大変だよね、くるみちゃん」

「うん……でも、みんな、やさしくしてくれるから、だいじょうぶ」

 くるみちゃんは健気に笑う。
 この前会ったときは顔が涙でくしゃくしゃになっていたけれど、こうして普段のくるみちゃんを見ていると、ちょっと自信なさげな笑顔がとっても魅力的に見える。守ってあげたくなる感じ。

「なにはともあれ、改めてこれからよろしくね、くるみちゃん」

 マキノちゃんがくるみちゃんに微笑みかけた。

「よろしくおねがいしましゅ……します」

 くるみちゃんは言い直して、ぺこりと頭を下げた。
 私は湯のみにお茶を注いで、美穂ちゃんとくるみちゃんの前に置く。

「はい。美穂ちゃん、これからはどうするの?」

 美穂ちゃんはお菓子の袋から柿ピーの小袋を取り出して自分の前に置いてから、私の質問に答えた。

「くるみちゃんの宣材写真を撮影しておくようにって、プロデューサーさんが。スタジオと社内カメラマンさん、スタイリストさんの予定は押さえてあるみたいです。でもプロデューサーさんは予定があって立ち合いはできないみたいで、私が案内するように頼まれました。そのあとはちょうど私のダンスレッスンがあるので、くるみちゃんを見学させるようにって」

「なかなかハードスケジュールね」

 マキノちゃんが言いながら、お茶を一口。

「おしゃしん……と、ダンス……くるみ、ドジだから、ちゃんとできるかなぁ……」

 くるみちゃんは不安そうに湯のみの水面を見つめた。

「大丈夫! 写真は自分でもびっくりするくらいかわいく撮ってもらえるし、ダンスも最初はだれでも初めてだから。私も、習いたてのころは全然できなかったけど、練習して少しずつできるようになったんだよ」

 私が励ますと、くるみちゃんは興味深そうに頷いた。でも、まだちょっと不安そう。

「あっ、そうだ、私も見学していいかな?」

 私が提案すると、くるみちゃんの顔がぱっと明るくなった。急ぎの予定もないし、くるみちゃんもすこしでも知っている人がそばにいるほうが、きっと安心だよね。
美穂ちゃんが頷く。

「うん、大丈夫だと思います」

「マキノちゃんは?」

「私?」マキノちゃんは突然話を振られたことに驚いたのか、意外そうな顔をした。「……私は、調査を進めることにするわ」

 マキノちゃんの言葉に、美穂ちゃんとくるみちゃんは不思議そうな顔をした。きっと、プロデューサーさんのことを調査するのだろうと私は想像する。

「じゃ、写真撮影の時間まではちょっと休憩、お菓子パーティーだねっ!」

 言いながら、私はお菓子の袋をテーブルの中央に移す。
 それからしばらく、私たちはお茶とお菓子でおしゃべりに花を咲かせた。



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