【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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16: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/08(土) 00:24:17.41 ID:1bCRB9ws0
「私、は」

 なんとか声を出そうとして、でもそこで詰まってしまい、私は足元を見た。
 視界の端に見えているプロデューサーさんは、黙って私の言葉を待っている。
 なにか言わなきゃ、と私が迷っていると。

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええん!」

 私たちの正面のほうから、女の子の泣き声が聞こえた。私もプロデューサーさんも、声のしたほうに注目する。
 さっき目にした、なにやら集まって話しているように見えた中学生くらいのグループだった。男の子が数人で、一人の女の子を指さして笑っている。

「やーい、泣き虫! ドジ! バーカ!」

 子どもっぽい罵りの言葉で、男の子たちは女の子をからかっていた。実際にどっちも子どもなんだけれど。

「……ふむ」

 プロデューサーさんはすっと立ち上がり、その子たちのほうへ歩いていく。私もそのあとを追った。プロデューサーさんが男の子たちと女の子のあいだを塞ぐようにして立ったので、私は女の子に寄り添った。顔中が涙でぐしゃぐしゃになっている。

「君たち、なにをしていたのかな?」

 プロデューサーさんはあくまで穏やかに、男の子たちに問いかけた。

「な、なにって……」

 男の子たちは明らかにうろたえる。自分たちのしていることがどういうことかは判っているみたい。

「楽しく遊んでいるのならいいが、どうも、彼女は悲しそうに泣いているみたいだからね。心配してしまいました。さて、きみたちのなかに、どうして彼女が泣いているのか知っている人はいるかな? よかったら、教えてくれますか」

「う……」

 男の子たちはお互いに気まずそうに目を合わせる。そのすぐあと、罪の意識に耐えられなくなったのか、一人がその場から逃げ出した。

「あっ、待てよ!」

 ほかの男の子たちは、逃げ出した子を追うようにその場から走り去っていった。
 泣いていた女の子は、不思議そうな顔で私とプロデューサーを見ている。

「ふぇ……おじいちゃんたち、誰……?」

「大丈夫? ほら、涙拭こう」

 私はハンカチで彼女の顔を拭く。ポケットティッシュを渡すと、女の子は自分で鼻をかんだ。
 私は女の子を眺める。背中まで届く、ボリュームたっぷりのつやつやの黒のロングヘアー。白のブラウスとブラウンのスカートで、胸元に小さなリボン。それだけ見れば年相応の女の子だけれど、その子には大きな特徴があった。女の子のちいさな背丈に似つかわしくない、大きく成長した両の胸。たぶん、いや確実に私よりも大きい。

「お嬢さん、どうして泣いていたのかな」

 プロデューサーさんは女の子の近くに寄って尋ねる。

「う、うぅ……くるみが、バカだから、ゆるゆるだから、ひぐっ」

 と、話しているあいだに、また女の子の目元から涙がぽろぽろとこぼれてしまう。

「泣かなくてもだいじょうぶだよ」

「ふぇえ、ごめんなしゃ……ごめんなさい……」

 私は彼女の涙をぬぐい続けた。ハンカチはぐっしょりと重たくなっていく。

「おや、困ってしまいましたね」そうプロデューサーさんは言ったけれど、顔は穏やかに微笑んでいた。「座りましょうか」

 私たちはもといたベンチに、女の子を間に挟んで三人で座った。私が女の子の背中をさすり、数分たって、女の子はようやく落ち着きを取り戻してくれた。


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