70: ◆GO.FUkF2N6[sage saga]
2018/12/23(日) 21:36:35.39 ID:l63Jdi8N0
「志希」
プロデューサーから差し出されたスマホからはもう声が聞こえない。
あたしの興味はもうそれにはない。
「プロデューサー、どうするの? もう時間がないのに。生放送なんだよ」
「わかってる」
「せっかくここまでがんばってきたのに。このままなにもできませんでしたじゃ、仁奈ちゃんが番組を降ろされちゃうよ」
「……わかってる」
「そうだ、仁奈ちゃんのママに変装するってのはどうかな? テレビで見てる人は本物かどうかなんてわからないし、それなら──」
「志希がさっき言っただろ。本番まで時間がないんだ。いまさら変装なんて間に合うわけがない」
「えっ、あっ、そうか。ええと」
「落ち着け、志希」
「あたしは落ち着いてるよ。それよりも、早くなんとかしないと」
「いいか、よく聞け志希。おまえが出るんだ。変装なんかじゃない、一ノ瀬志希としてゲストに出演してくれ。どんな結果になろうと責任は全部俺がとる」
「あたしが、代わりに?」
「仁奈には俺から伝えておく。だから志希は出番までに準備を済ませておけ」
メイク係にあたしのことを頼むと、プロデューサーは控室のあるほうに走って行った。
されるがままに化粧を終えたときには、本番まですでに1時間を切っていた。
……。
準備をしておけと言われても、いまさらなにをすればいいのかなんてわからない。
だけどひとつだけ、絶対にしておかないといけないことがある。
偉そうなことを言ったあたしが、逃げるわけにはいかない。
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