69: ◆GO.FUkF2N6[sage saga]
2018/12/23(日) 21:32:23.88 ID:l63Jdi8N0
「はじめまして。一ノ瀬志希と申します。早速で恐縮ですが、番組まで時間がありません。いますぐ来てください」
『……申し訳ございません。さきほどプロデューサーさんにも申し上げましたが、どうやっても間に合いそうになくて』
「仁奈ちゃんには、このことをお伝えしたのですか?」
『……いいえ、言ってません。プロデューサーさんに伝えていただくようお願いしました』
「……」
『この度はご迷惑をおかけし申し訳ございません。ですが、あたしは行けなくなってよかったのかもしれません。こんな母親、仁奈もきっと嫌いになってしまったと思いますから。それに、あなたのほうがよっぽど──』
「ふざけてるのかな」
『……』
「仁奈ちゃんは今日もライブのときも、ママが来てくれるってすっごく楽しみにしてて。そのためにいっぱいいっぱいがんばってきて。それなのに行けなくなってよかった? こと言わないでよ」
『……』
「嫌われたとか知ったようなこと思う前に、ちゃんと自分の口から行けなくなったことを言ってよ。ほんとは震えるほど怖いのに、仁奈ちゃんは勇気を出してあなたに電話をしたんだよ。あの子の母親のくせに逃げないでよ!」
「志希!」
プロデューサーはあたしからスマホを奪い取って、電話の女となにかを話している。
どうして?
いつでも会いにいけるところにいるくせに。
あんなにあの子に愛されているくせに。
あたしは、あたしには──。
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