10:名無しNIPPER[sage saga]
2018/08/26(日) 00:48:17.03 ID:BsXQ9LjA0
居間に戻ると、母と祖父が何か話し合っていた。私は少し離れたところに座って、仕事の連絡が何か来ていないか確認する。
「みく!」
突然低い声で名前を呼ばれて、背筋がピンと伸びた。
「ちょっと来なさい」
祖父は立ち上がって奥の和室へ向かっていく。すれ違いざま、「私何かした?」という目線を母に投げると、「さあ?」とばかりに首を傾げられた。
和室に入ると祖父が和箪笥の引き出しをごそごそしているのが見えた。色とりどりの生地の横に裁ちばさみや裁縫道具がある。すぐに一枚の赤色の浴衣を取り出して、こちらを向いて私を手招きした。
「この浴衣はお前の婆さんが若いころ着とったやつや。……みくやったら似合うやろ、持って帰り」
差し出された浴衣を私は手に取った。柔らかく、新品には出せない風合いがあった。……サイズはちょうどいいだろうか。
「一回服の上から袖通してみてええ? 大きさ確かめたいし」
祖父はむっつりとした顔で頷く。
サイズは少し小さいかな、という程度だった。服の上から着ているので実際にはちょうどいい具合だろう。
「……どう?」
くるりと回ってみる。
祖父はじっくり見てから、「ああ、ええなあ。婆さんそっくりで綺麗や」と、初めて笑った。
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