9:名無しNIPPER[sage saga]
2018/08/24(金) 09:25:27.25 ID:8pRhN5eX0
思い出すのは十年前。両親から実家に帰ると連れ出され、おじいちゃんの家にいたときの話。
私は好奇心に駆られ、自分の家の何倍も大きいおじいちゃんの家を歩き回った。
つんと鼻につく匂いを感じて、導かれるように一室に辿り着く。
おじいちゃんが中に居て、何やら集中しているようだ。
中へ入ろうとするとおばあちゃんに止められた。
「今ねぇ、お祖父ちゃんは真剣だからねぇ。邪魔しちゃだめ」
「何してるのー?」
「見てごらん」
おばあちゃんは部屋の壁を指差す。
「わぁ……」
並んでいたのはたくさんの器。
おんなじように見えて、それぞれがちゃんと違う。
「おじいちゃんはあれを全部作っているのよ」
「そうなんだ!」
「そしてね、おじいちゃんはずっと、楽しそうに作るのよ」
「楽しそうに?」
「うん。笑顔じゃないけれど、楽しそうにね。肇、きっとあなたにもわかるときがくるわ」
「ふーん」
幼いころの私がどんな風に、おじいちゃんや器たちを見ていたのか、明確には思い出せない。
でも、初めてろくろに触れたとき。
あの感動は鮮明だった。
自分の手で、頭の中のものを、作り出せる喜び。おおはしゃぎして部屋を汚しちゃったんだっけ。
……そうか。
私は楽しいからやってたんだ。
いつから忘れて。
大切な感情をどこかに落としてしまって。
完璧を求め始めた。
完璧な器。完璧な表現。そこに一切の感情が入ることを許さなくなって。
そんなことを重ねて、立ち行かなくなった。
私は、何でそのことを。
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