【モバマスSS】肇「私なりの色を」
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8:名無しNIPPER[sage saga]
2018/08/24(金) 09:12:40.70 ID:8pRhN5eX0
 翌日。
 私は今日はオフをもらえた。
 プロデューサーさんはどうやら私の絵を持ち帰り、一枚を廊下に飾ってくれたらしい。
 プロダクションの中を歩き、私はその一枚をみつけた。
 私、描けたんだ。
 そんな実感がじんわりと出てくる。
 これなら、きっと陶芸も、上手くいくはず。
 決意を新たにして、去ろうとした私に声がかけられた。
 荒木さんだ。
「昨日はお疲れ様っス」
「先日はありがとうございました。私にとって大きい一歩になりました」
「や、止めて下さいっス。私は大したことなんてしてないっスから」
 そんなこと言いながら荒木さんは笑みを浮かべている。
「おっ、これがその時の絵っスね」
「はい」
 荒木さんは私の横に立ち並び、絵を眺める。しみじみ、といった感じでうんうんと首を振る。
「いやーいい絵っスね。私の目に曇りはなかったっス。肇ちゃん、これは才能があるかもしれないっスよ」
「いえいえ、そんな……私には陶芸がありますから」
「あー。そういえば肇ちゃんは陶芸に悩んで、アイドルになった、って言ってたってっスね」
「はい。そうなんです。でも、私は成長できました。きっと今なら、思い通りのものを作れるはずです」
 そしていつかはおじいちゃんに追いつくことだって。
「……」
 すると荒木さんは突然押し黙ってしまう。
 何かを思い詰めたように。考え込むように。
「荒木さん?」
「肇ちゃん、聞いていいっスか」
「え、ええ」
「この絵を見て、肇ちゃんはどう思うッスか」
「絵? ですか?」
 荒木さんはこくりと頷いた。
 私は絵に目を移す。
「……どう、と言われても、私には……。よくわかりません」
「そうっスか……」
 荒木さんは絵に近づいた。
「この絵は合格って言ったッスよね」
「はい。それが……?」
「まごうことなき合格っス。オマケもつけたくなるくらい。水の光も、魚が悠々と泳いでいる様子も、水草が揺れる様子も。全部素晴らしいっス。だから、絵は合格っス」
 妙に、絵は、と強調するように言って。
 荒木さんは私を見た。
「質問を変えるっス。肇ちゃんは何を思ってこの絵を描いたんスか」
「何を、思って」
 果たして、何だろうか。
 私が思い浮かべたこと。
 ……答えは中々見つからない。
 私は、何を思って、この絵を。
「肇ちゃんが何を思って描いたのか、当てるっス」
「え?」
「肇ちゃん、きっとあなたは、完璧を求めて描いたんじゃないっスか」
「……あ」
 完璧。
 理想の形。
完璧を思い描いていた。目の前の水槽を、完璧に描くように。
「あ、違うなら違うって言ってくださいね。恥ずかしいっスから。……コホン。少し説教臭くなるかもしれないっスけど。創作する同志として、話させて欲しいっス」
「……はい」
「創作って難しいっスよね。私も壁にぶつかったり、もっと酷いときは、何でこんなことをしているのか、わからなくなってしまうこともあるっす」
 それは、私にも言えたこと。
「でもそんなときに絶対思い出すことがあるっス。楽しい、ってことっス」
「楽しい……」
「辛くて苦しくて、迷ったりするけれど。楽しいからものを作るんでスよ。肇ちゃんも、そうじゃないっスか」
 荒木さんの言葉は、胸に深く刺さる。
 そうだ。私は。
 楽しかったんだ。


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