76:名無しNIPPER
2018/08/12(日) 00:52:19.67 ID:w6V3e5/y0
「うちの会社のアイドル部門はまだ小さくてね……こう言っちゃなんだけど、今みたいにこんなデカくなるなんて、誰も思ってなかった。アタシたちだってね。でもあいつは違った。世界一のアイドル事務所にしてやるって意気込んでたよ」
プロデューサーさんと関ちゃんプロデューサーは、同じ時期にこの事務所に入社した、同期だった。
「そんなあいつが初めて担当したアイドルはね、控えめだけど明るい良い子で、それに雰囲気があった。なにより歌がうまくてね。聞いたことない?」
関ちゃんプロデューサーは歌を口ずさんだけど、私は首を振った。
「世代じゃないもんね」と、彼女は寂しく笑った。
「そこまで有名って訳でもないし。でも歌声が綺麗だったんだ。澄み渡るようで優しくて。アイドルらしくないと言えばそうだけど、アタシは好きだったな。社内でも期待をされたんだけど……そんなときに病気が見つかってね」
癌だった。
それも喉に出来る癌。薬や放射能治療で、なんとか抑える事が出来たけど、彼女は歌えなくなった。
「綺麗だった声が潰れてね……売出し中のアイドルにとっては致命的だった。結局、引退することになって」
プロデューサーさんは治療中も、そして引退した後もずっと彼女の傍に居た。
信頼は愛へと変わり結婚することになった。
子供も生まれて、幸せそうだったという。
プロデューサーさんは結婚した後も、しばらくはプロデューサー活動を続けていた。だけど。
「奥さんがね、癌が再発したんだ。気づいた時には他の場所にも転移してた」
プロデューサーさんは仕事を辞めて、彼女の看病に専念することになった。
再発してから半年後、奥さんは息を引き取った。
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