川島瑞樹「ミュージック・アワー」
1- 20
35: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:14:16.70 ID:Ai+XpKnp0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ライブハウスには気の利いた“関係者席”などなかった。
瑞樹は変装をして、観客席に紛れ込んだ。

限界まで人を詰め込んだのか、場内はひどく蒸して、くらくらした。
だが静かだった。観客たちは整然と、静まり返っていた。
それは、LIVEにぶつける熱気をもらさないように、自らを抑えこんでいるようだった。

プロのメイク技術の賜物か、瑞樹に気づくものはなかった。
瑞樹は安堵し、一方でもどかしさを抱いた。

しばらくして、にわかに会場がざわついた。
アイドルが現れた。

若草のような艶やかな髪が、ふわりとゆれる。
彼女の歩みひとつひとつが、会場にさわやかな風を吹き込むようだった。

「みなさん、お久しぶりです……あっ、はじめましてのひともいますか?」

楓の声が、場内にしみわたった。くすくすという笑い声があとに続いた。
楓の衣装は緑を基調にしたドレスだった。

淡く、若々しい。まぶしいのは、スポットライトのせいばかりではない。

「今日の私はこ……元気です!」

楓の渾身のギャグ未遂に、瑞樹は吹き出したそうになった。

同じギャグは使わないって、こだわるのね……。

会場がまたざわめいた。柊志乃が、舞台袖からステージに現れる。
背中と胸元がくっきりと開いた、黒のドレス。

熟成された妖艶さが、たちこめるように発せられている。

「こんにちわ」

その言葉はゆっくりと、単語単語の間に読点がはさまれているかのように、紡がれた。
瑞樹はぞくりと、背筋をしなやかな指でなぞられているような感覚を覚えた。

「あら、楓ちゃん。偶然ね」

「志乃さんも“おしのび”ですか……ふふっ」

志乃と楓の掛け合いに、場内にまた忍笑いが広がった。
その笑いがおさまるのを待って、志乃が口を開いた。

「今日は……いえ今日も、最高のLIVEにするわ」

瑞樹は歓声を上げた。彼女ばかりではなかった。

「ハードなハードル……ふふっ…」

楓はギャグを呟いて、一旦舞台袖に下がった。
ここからは、柊志乃のステージだ。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
54Res/76.55 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice