36: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:14:50.83 ID:Ai+XpKnp0
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曲はバラードだった。歌詞は、ありふれた失恋の物語。
その歌が心を揺さぶる。
志乃の声はゆらぎ、たゆたい、それでも、まっすぐに観客へ届く。
歌唱を阻まないように、コールやエールは上がらない。
だが瑞樹は、会場の温度が急上昇しているのを感じ取った。肌が汗ばんでいる。
音色に合わせて、サイリウムが揺らめく。目がくらむような、幻想的な光景。
きっと、この光景を一生おぼえてる。
瑞樹は胸に手を当てて、うずくまった。
私は……私はまだ、アイドルじゃない。
涙がこぼれそうになって、瑞樹は顔を上げた。
ぬぐわない。この気持ちを、なかったことにしたくない。
ふと、志乃と目が合う。
瑞樹は視線をそらさずに、見つめ返した。
志乃はほほえんだ。体調のことなど、微塵もうかがわせない。
ごめんなさい、とも。
ありがとう、とも。
どちらともつかない気持ちがこみ上げた。
雫が目尻からあふれて、熱くほおを伝った。
「私と貴方達に、乾杯」
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