37: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:15:47.34 ID:Ai+XpKnp0
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高垣楓がステージの中心に立つ。
風が吹いている。瑞樹はそう思った。
楓がすぅ、と深く息を吸い込むと、曲が始まった。
またバラード?
瑞樹はそう思ったが、歌が始まると認識を改めた。
淡雪のように切ない。だが、決してか弱くはない。
繊細にして力強く、歌詞がその世界を物語る。
オペラ、ね。
楓の存在感が歌の中にとけて、観客の魂にしみわたる。
才能もある。だが、圧倒的な技術と努力に裏打ちされたパフォーマンス。
この子はモデル“くずれ”なんかじゃない。
ほんとうに、アイドルだわ。
瑞樹は楽屋で着替えたTシャツの袖を、きゅっと握りしめた。
くやしい。そう心から思った。
そう思えたことが、うれしかった。
「ありがとうございます」
曲が終わったあとは、志乃と同じく、大きな拍手と歓声が会場にいっぱいに響いた。
人数は、瑞樹の初ライブに遠く及ばないだろう。
だが、瑞樹があの日手に入れられなかったものが、ここにはあった。
柊志乃は自らの年齢や状態に臆病になることはなく、ステージに上がった。
高垣楓も自らを偽ることなく、ありのままで曲を表現した。
自分がどんな存在なのかを、はっきり知っているから。
自分がどういうふうになりたいのか、わかっているから。
私は……。
瑞樹はまだ迷っていた。
その迷いをほどくための答えは、自分自身の中にしかない。
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