川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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38: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:16:18.95 ID:Ai+XpKnp0
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春の陽気がうっとうしくなりはじめる頃、瑞樹はひさしぶりにテレビ局に自主出頭した。
はじめから企画は瑞樹の裁量の埒外にあって、受け持っていた番組の後任もあらかじめ準備されていた。瑞樹は、着の身着のまま346プロダクションに送り出されたようなものだった。

さらに、プロジェクトの進捗報告はすべてプロデューサーが行なっていたので、瑞樹は局との接点がまったくなかった。アナウンサーの仕事がなければ、密な連絡を取り合う者はいなかった。瑞樹が友人だと思っていた相手でさえも、そうだった。

“アナウンサー”という仕事が、自分にとってどんな意味があったのか。
瑞樹はそれを明らかにしたくて、テレビ局に足を踏み入れた。

玄関ホールに入ると、何人かは顔を上げて、会釈した。瑞樹はそれに返した。
よそよそしかった。よそ者。

「ふふっ……」

瑞樹はひとりで吹き出して、スタジオのほうへ移動した。
今は収録の時間。瑞樹が担当だった番組だ。テレビで見るかぎりは順調だったが、撮影のほうはどうなっているのだろう。

瑞樹はシャツの襟を正して、スタジオの扉を開こうとした。
だが、警備員に制止された。

「関係者以外立ち入り禁止です」

瑞樹は口を尖らせて抗議した。

「私を知らないの」
「知ってますけど、今は収録中で出演者と製作陣以外は立ち入り禁止です」

「私はアナウンサーよ」

「こっちは警備員です」

ぐうの音も出ない正論。頭では納得できるが、心が猛然と唸っていた。

私がアナウンサーから逃げたわけじゃないのに。
テレビ局がアイドルになれと言ったのに。

スタジオから一旦離れて、瑞樹は電話をかけた。

アポイントメントはとってあるはずだけど……。

「もしもし」

『川島さんですか。お久しぶりですね』

相手はテレビ局の事務員だった。
瑞樹は事務室を話を通してから、局にやってきている。

「スタジオに入れてもらえないんだけど、どうしたらいいかしら」

『なぜスタジオに入りたいんでしょうか』

「なぜって……」

瑞樹は言葉に詰まった。それが当然の権利だと思っていたから、改めて理由を尋ねられると返事に窮する。
アナウンサーだから。川島瑞樹だから。
それがもう、通用しない。たった半年で。



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