36: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:47:28.45 ID:LgMjPCNT0
「――後はそう、役作りは当然した方が良いよ」
頼りない後輩からの相談を受け、小さな女優は肘をついて語る。
「お兄ちゃんからも聞いてるけど、紗代子さんたちって今まで端役の経験ばかりでしょ?
今度は出番も台詞も段違いに増えただろうし、
桃子的には、舞台の上でよっかかれる物は多ければ多いほど良いと思う」
「それは、琴葉さんも同じことを言ってた。特に私は主役を演じるから」
「あー……。琴葉さんも、ね」
諸々の事情を聴き終わり、あらかた助言も語り終わり、
念の為だと私が持ってきていた『壁を掘る人』の台本に目を通して桃子ちゃんは呟く。
けど、その口ぶりは明らかな違和感を感じさせた。
奥歯に物が挟まった、なんて表現がしっくりくるほど普段の調子よりキレが無い。
私が不思議に思っていると、彼女は台本のページを捲りながら。
「あの人のことだから、さっき桃子が言ったみたいなアドバイスはみんな聞いてるんじゃない?」
「う、うん。昔の公演を始めて観たその日のうちに」
「だよね。……なのに紗代子さんは、桃子にもこうして助言を貰いに来てる」
桃子ちゃんは上目遣いで見上げるように、目だけをこちらに向けて言った。
人の心を見透かすような視線。「行き詰まったんだ」その一言に全てが込められていた。
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