33: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:38:43.30 ID:LgMjPCNT0
「物足りないってよりも、惑わされたって感じです。煙に巻かれちゃったとでも言うか」
「でも、雪歩ちゃんに口止めをした木無塚さんたちの気持ちも……私は少し、分かるな」
琴葉さんが机の上で頬杖をつく。
私はそんな彼女の視線の先を追って、
壁に掛けられている『なんくるないさぁ』と書かれた掛け軸を発見する。
「私がいつもしてる役作りってね」
そうして琴葉さんは、ぽつりと呟くように話し出した。
「与えられた役を、自分に重ねることを意識しながら進めるの。
台本を何度も読み込んで、過去の公演があるならそれを観て、
演じる役の言葉遣いや立ち振る舞い、表情なんかを一つずつ丁寧に真似していく。
少しずつ、自分とは違う役の面影を重ね合わせていく。
理想と決めた完成系のイメージに、自分と役を擦り合わせるの」
「だけど琴葉さん、今回の分は当て書きだって。
そうなると完成系って言うのはつまり、役作りをしてない自分になりませんか?」
「だから先入観を持たせたくなかったんじゃないのかな?
雪歩ちゃんがさっき言った通り、彼女の真似をするだけの紗代子にはなって欲しくなかったから」
「……ううん、何だか難しいなぁ」
思わず頭を抱えた私を見て、琴葉さんが「だよね」と頷いた。
「でもそれが演技の楽しさだから。今回の課題は難題だね」
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