5: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:42:57.98 ID:eC2l/XLI0
向井拓海は、彼のぱさついた人生唯一の潤いだった。
美城プロダクション所属。
8月7日生まれ、18歳。獅子座。A型。
6: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:43:33.54 ID:eC2l/XLI0
彼が物思いに耽っていると、突然後ろから肩を叩かれた。
獲物が見つかったという合図。
指をさされた方向を見る。
7: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:44:21.76 ID:eC2l/XLI0
向井拓海。
なぜ。
今すぐ会いたくて、会いたくてたまらなかったが、
8: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:45:03.10 ID:eC2l/XLI0
それどころか、彼は震える手でハンドルを回して、
ワゴンを動かしていた。
そう、彼は心の底で期待したのだ。
9: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:45:52.32 ID:eC2l/XLI0
向井拓海は携帯電話で誰かと話しているようだった。
だからワゴンの接近に気づかなかっただろう。
彼は身体中から急速に水分が失われていくように感じた。
10: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:46:51.68 ID:eC2l/XLI0
だが、向井拓海はその場から一歩も動いていない。
肌の黒い男は冷や汗をかいていた。
完全に力負けしている。
11: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:48:26.95 ID:eC2l/XLI0
それは足をがっちりと地面に固めていたので、
腕力分の威力しか乗らなかった。
それでも長髪の鼻骨と上顎を陥没させ、
12: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:49:11.01 ID:eC2l/XLI0
「次は命令だ……両手をはなして、大人しく帰んな」
それでも、男は動けなかった。
だから、向井拓海は動いた。
13: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:50:15.37 ID:eC2l/XLI0
ガラスが鈍い音を立て、蜘蛛の巣を作った。
それでもまだ男が動いたので、回し蹴りを放った。
日々のレッスンで鍛えげられた脚部は、しなやかに伸びた。
14: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:51:36.92 ID:eC2l/XLI0
はらはらと涙を流した彼に、後ろから声がかかった。
「運転席のテメー」
思わず振り返った。
15: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/05/28(月) 18:52:18.72 ID:eC2l/XLI0
ぼくは、あなたのファンです。
彼はそう言いたかった。
けれどもできずに、苦しそうに呻くだけだった。
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