90: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/08/28(火) 23:00:42.29 ID:3l3UqrgJ0
「パンツ見たでしょ」
「……覚えてません」
「うそつき」
うそだ。克明に覚えている。更に言えば、俺は人々にこの光景を伝え歩く愛の伝道師となるであろうことが確定している。
「責任取ってよ」
彼女の声は、どこか震えていた。怒りに震えるという言葉がある。つまるところ彼女の怒りは、それほどのものであるのだ。
目は微かに潤み、頬に紅が指しているのも怒りのあまり故ということであろう。
謝罪の言葉を述べるべきなのだろうか?しかし、故意ではないというのは事実であり、それに対して謝るというのも何だか理不尽な気がする。
しかしながら、彼女が怒りを覚えており、それについて債務を果たすよう主張している現況を見るに、俺が彼女の言うところの責任をとらないというのは悪手であろう。
ならば、二人とも面目が立つ提案をするのはどうだろうか。そう、俺が謝罪の意を明確に示すことなく、かつ彼女が機嫌を取り戻すための提案だ。
「それじゃあ、酒でも奢るよ」
彼女からの返答はない。恐る恐る、彼女の顔を覗いてみる。
なんだあの顔は。あれはどういう顔なんだ。彼女は、その愛らしい口と目を全開にし、そのまま表情筋が突然死してしまったかのように、固まってしまっている。
いや、口が徐々に閉じていく。頬の紅潮が、顔全体へと広がっていく。あ、これはまずい。
「いや、今夜一晩!お好きなだけワインをお召し上がりください!」
「……あがが」
その表情は、爆発寸前の火山そのものであった。足りないのだ、彼女にとって一晩飲み放題のワインなど腹ごなしにしかならないのだ。
「朝まで!朝まで!好きなだけ!ワインを!驕ります!」
火山の噴火に一瞬身構えるが、彼女は代わりにため息をひとつだけ漏らすだけだった。
「……わかった。それで手を打つわ」
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20