73: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/08/13(月) 23:29:04.37 ID:mSb4wVOg0
ワイングラスに手を伸ばす。手が、微かに震えている。
勇者と呼ばれ魔王に一人立ち向かった俺が恐れているだと?いや、これは武者震いだ。
自分を奮い立たせるも、手の震えは止まらず、グラスがカチンと音を鳴らした。
「おいおい、飲む前から酔っぱらっているの?」
「そそそんなわけ、あるか。ずっと同じ姿勢をとっていたから手が痺れちゃったんだよ」
言い訳にしてはちょっと苦しかったかもしれない。
「……いいかい?これは良いワインだから、絶対に顔にひっかけたりしちゃだめだよ!」
顔にひっかける?いったいどんなアクロバットな飲み方をしたらそんなことになるんだ。
いや、手の震えが収まらない状況を鑑みるに。ありえないこともないか。
俺は、ワインの香りを楽しむふりをして何とか手の震えが収まる時間を稼いでからグラスを口へと運ぶ。
ゆっくりと落ち着いて、ワインを口に含み。その味を確かめる。
強烈に口内に広がる渋みと酸味が、意識を覚醒させる。その刺激のせいか、目からは少しだけ涙がこぼれおちた。
な、なるほど、ワインは香りに見合った強い味を持っているのだな。
なんとか喉を通すと、その強烈なインパクトが喉や、胃の中にも広がっていくのが感じられる。
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