70: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/08/13(月) 23:27:40.44 ID:mSb4wVOg0
「しかし案外、簡単に譲ってくれたもんだな。いくら抜け穴があるといっても禁制品だぞ」
「教会は、そこら辺緩いからねー。それでは、勇者には悪いけどお先に一口!私の瞳に乾杯!」
水差しからグラスへとワインが注がれる音が部屋に響き渡る。
そして、ワインが喉を通っていく音。聞くことしかできないが、ワインが彼女の喉を滑り落ちていく姿が俺の中で再生される。
すると想像の効果だろうか、どこからか強く芳醇な香りが漂ってきたような気がする。いや、これは想像ではない。現実だ。
俺の鼻は、確かにワインの匂いを嗅ぎつけた。
「ブドウの。いや、煮詰めたブドウが腐ったような匂いがする……」
「ぷひー。そりゃそうだよ。煮詰めてこそはいないけど、発酵と腐敗は同じことなんだから」
「よく考えると、よくそんなものを飲もうと考えたもんだな」
「そうね、偉大なる先人。ワインを初めて口にした人間に感謝しなくちゃ」
遊び人の言葉に、俺は雄大なる歴史をさかのぼり。ワインの起源を想像する。
口ひげをたくわえた一人の男が、清らかな水が静かに流れる川の辺で、石に腰を掛けブドウの甘味を楽しんでいる。
おや?もう無くなってしまったか……と思いきや、足元に一粒のブドウを見つける。ほほっ、ラッキーじゃわい。
ブドウを川の水で洗い土を落とす。おや?これは、儂が落とした奴ではないな。妙に柔らかいぞ。
しかも他のブドウに比べて、匂いの強さが一段だ。よし、食べてみるか……。
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