59: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/07/19(木) 07:37:09.00 ID:/DWZcchK0
「まあ、それだけじゃないわよ。目的が同じ仲間が欲しかったてのもあるかな。……一人は寂しいもの」
ほんの少しだけではあるが、彼女の声に陰があった。普段の俺ならば、見逃す。いや、聞き逃すほどの些細な感情の翳り。なぜ、気づくことができたのか自問自答するが答えは出ない。
「俺は、そう思ったことはないけど」
「だって勇者は、ずっと一人旅でしょ」
「そうだな」
「私には、たくさんの仲間がいたんだもの。急に一人になって寂しいって思うのはしょうがないことでしょう?」
そうだった。彼女は、俺が魔王を追い落したことで職を失った元騎士だ。多くの仲間と同じ釜の飯を食い、血や汗を流して魔物達と戦う、そうやって長い時間を信頼できる仲間たちと過ごしてきたのだろう。
不可抗力ではあるが、彼女の孤独の遠因に俺がいることに一抹の責任を感じてしまう。彼女の、戦闘力から見れば。いやそれだけではない。彼女の、魔王が放つ漆黒の闇のオーラさえ眩く照らしてしまいそうな明るさから鑑みても。彼女が仲間たちに慕われていたであろうことは明らかだ。
もしかすると、彼女が酒を飲むのは孤独から逃げたいがためなのかもしれない。俺が、酒の力で不安を取り除いたように。
「ああ、なんだか飲みたくなってきちゃった」
「……酒を飲んで油断なんてしたらどうする、細い縄なんだ手放すわけには行かない」
「酒を飲んだぐらいで油断する玉じゃないでしょ」
「ケガでもしたら大変だ」
その愛らしい顔に傷でも付いてしまったら俺は。
「その時は、貴方が守ってよ」
その声には、光が戻っていた。出会ってまだ短いが、常に彼女が纏っていた明るさが蘇っていた。
そうか、彼女は常に輝いていた。だからこそ、僅かな翳りにも俺は気づくことができたのか。
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