53: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/07/03(火) 20:42:09.89 ID:nr7S1uqh0
食事も休憩もとらず丸一日走り通しの強行軍、この町に辿り着いた時には這う這うの体だった。ミノタウロスの情報は正確だった。
連絡員の潜んでいるはずの小屋はすぐに見つかった。よりにもよって教会の前に魔王軍の拠点を建てるとは肝が据わっているとは思ったが、俺たちにとっては都合がよかった。
俺たちは、秘密裏に教会の神父様に接触し部屋を借り受け拠点を見張ることにした。
「勇者はからかいがいがあるなー」
「そんな暇があったら、確り休んでてください」
遊び人は返事を返さなかった。
つい出てしまう敬語が、信頼関係を築く間もなく同行することとなった俺たちの距離感を物語っている。
俺の感情や、本心は敬語でもって覆い隠されているのだから、楽しい会話が続くはずも無いのは道理だろう。
昼は遊び人、夜は俺。見張りを行ううえで決めたシフトが、唯一俺たちの間で交わされた約束事だ。
この部屋に入った時、一つしかないベッドに淡い期待をよせもしたが、交代で眠るため何の問題も過ちも起きるはずもない。残念なことに。
残念なことに……そう、それが本心なのかもしれない。
成り行きでできたとは言え初めての旅の同行者、新しい仲間と仲良くなりたいと考えるのはごく自然の事ではないだろうか。そこにあるのは、下心だけではないはずだ。
酒は、あれから一滴も飲んでいない。魔王の少ない手掛かりを、酔いのせいで不意にしたくはなかった。
おかげで、俺の不眠はあの一日を除いて続いている。昼と夜で、シフトを組んだもののほとんど一日中起きている俺にはあまり意味がない。
疲労の為か、俺の集中力が僅かに乱れてきていた。
集中力が乱れると、急に恥ずかしさが湧いてきた。若く、可愛い女の子と、二人っきりで……っ、ベッドが一つしかない部屋に!
一体この状況は何なのだ!魔王を追うという使命感だけで抑えられていた、俺の若く逞しいリビドーがひょっこりと顔を覗かせ始めたのだ。
そうすると、沈黙が酷く気まずく感じられてくる。
俺は、遂に緊張に耐え切れず、言葉を漏らした。
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