42: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/06/17(日) 18:22:45.60 ID:3k6rJQ/z0
「おい、何をやってるんだ!そんなことする必要はないだろ!」
遊び人が詰め寄ってきた。
無視して、足に刺したナイフを捻る。魔物の親玉は、再びうめき声をあげた。
「やめろって言ってるんだよ!」
遊び人が、俺を押しのける。邪魔をするなと睨みつけるが、遊び人はひるまない。
「お前には、任せてられない。向こうへ行ってろ、私が聞き出す!」
「魔物に慈悲をかけるのか?」
「冷静さを失ってるぞ勇者。酒だけじゃなく、血にも酔ってしまったのか?」
「聞き出す方法は、拷問に限らない。いいから向こうに行ってろ」
遊び人の目には、怒りが宿っている。
騎士団は、戦う技術以上に心の在り方を重んじる。彼女も、退役したからと言ってその道徳心を捨てることは無かったのだろう。
手段を選ばない俺とは大違いだ。
だが、彼女を説得するのは非常に難しそうだった。仮に拷問を続けたとしても、魔物が洗いざらい吐くとも限らない。
今回は、彼女の意見を尊重し黙って引き下がることとしよう。
俺は、彼女に「任せる」とだけ伝え一人と一体から距離をとる。
そして、倒れている魔物達が全て視界に収まるよう積み上げられた木箱の上に腰を下ろす。
これなら、仮に魔物達が遊び人に飛び掛かろうとすぐに対処できるだろう。
遊び人は、ミノタウロスの耳元になにやら語り掛けているが俺の位置からは、何を話しているかは聞こえない。
遊び人の語り掛けに、魔物は意外にも素直に応じている。
何を答えているのかは、わからないが魔物の表情をみるに嘘を言っているようには見えない。
「聞き出す方法は、拷問に限らない」彼女の言は正しかったようだ。
二人はしばらくの間、話し込んでいた。
話が終わると彼女は立ち上がり、なにやら呪文を唱えた。しばらくすると、魔物達がうめき声を寝息へと変えていく。
睡眠魔法をかけたのであろう。彼女も多少は酔っているだろうに、器用なものだ。
更に、彼女は魔物達の傷の手当てを始めた。全く、騎士団の博愛精神にはあきれてものも言えない。
だが、俺はその様子を黙って見つめるにとどめおく。少なからずではあるが、彼女の機嫌を悪くしたくないという気持ちもあった。
しばらくすると、彼女は俺のところへ戻ってきた。
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