31: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/06/08(金) 22:55:16.60 ID:/Kiw1pMk0
遊び人の言いぶりからすると、俺は多少恨まれているのだろう。面識のない俺に、突然声をかけたのも恨み節を聞かせるのが目的かもしれない。
そんな推測が、酒の効能もあってか少しお花畑になっていた俺の思考を急激に冷ましていく。
しかし、そのおかげで俺は場の空気に押され頭の片隅に追いやられていた自身の目的を思い出すことができた。
「もうそろそろ良いんじゃないか」
「なにが?もしかして、ベッドインに誘ってるの?血気盛んなのは嫌いじゃないけど、ちょっと焦りすぎじゃない」
「そそそ、そうじゃない!お俺もこうやって酒を口にしたのだから、これで晴れて酔っ払いの一員だ。この酒場で、魔王に関する情報を持っている者を知らないか?」
「もしくは、君自身が何らかの情報を持ってはいないか?」
俺は、息継ぎをする間もなく一気にまくし立てた。声は少し震えつつ、普段より半オクターブほど上がってしまっていた。
全くなかったとは言えない下心を見透かされたようで、俺は明らかに動転してしまっていたのだ。
俺が、この短い逢瀬で彼女の中に築き上げた俺のハードボイルド像は音を立てて崩れ去ったことであろう。
「勇者様は、せっかちだなあ」
「初めてのビール、俺にはあまり美味しく感じられなかった。ビールをまずいと言っているわけではないが……」
「俺の舌は、酒を楽しめる術を持っていないようなんだ。だから、遊びは休憩して本来の仕事をすることにしたんだよ」
「遊びを休憩?『遊びを休憩して』って言った……?はっ、勇者様は遊び人の才能があるようだ!」
「だいたい最初から、酒を美味しく飲める奴なんていないわよ。みんな、少しずつ舌をならしていくんだ」
「時に失敗し、時に後悔し。人はそうやって、酒の楽しみ方を覚えていくもんだよ。女を抱くのと同じさ」
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20