29: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/06/08(金) 22:54:23.58 ID:/Kiw1pMk0
「とある異教の国の司教が、死んだ時の話なんだけどね。彼は、仁徳深い人で葬式にも大勢の人が参列したの。それで、埋葬しようと彼の遺体を運んでたんだけど、まあとある町で人々は休憩をとったわけよ」
「みんな喉も乾いてて、喉が渇いたときに飲むのはビールでしょ?ビールを飲もうとするんだけど、残念なことにマグカップ一杯分しかビールが無い」
「ところがあら不思議。マグカップのビールは飲み干しても飲み干しても、まるでマグカップから湧き出るように無くならないの。遂には、参列していた人々全員の喉を潤してしまった」
「その事件をきっかけに、その人は教会から聖人として認定されて。今でも、ビールの守護聖人として崇められているのよ」
随分、俗的な奇跡だった。だが、宗教絡みの話となると直接的に批判するのも憚られる。
それに、酒は宗教的儀式においてしばしば用いられていること鑑みるに、宗教と酒は切っても切れない関係なのかもしれない。
「なんとなく、酒絡みの奇跡というとワインが出てくる気がするが」
「ワインの歴史には負けるけど、ビールだって同じくらい古い歴史があるのよ」
「まあ、私の歴史に比べればどっちも浅いけどね。って、女の子に年齢の話をさせるもんじゃないわよ!」
何がおかしいのかわからないが、遊び人はケタケタと笑っている。
何だこの女は。話に脈絡が無く、たいして面白くも無いのによく笑う。
普段なら忌避したい典型的な酔っ払いの姿ではあるのだが、彼女の笑う姿を見ていると釣られて俺も表情が緩んでしまう。
「そういえば、エールってあるよな。あれはビールとは違うのか?」
「あー、エールね」
「味は知らないが見た目はよく似ている。製法や材料に違いが?」
「アンタね、私を何だと思っているの。醸造家か何かと勘違いしてるんじゃない?」
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