277: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:27:32.11 ID:ABaWR+nR0
「……」
当然、そこには遊び人の体が捨て置かれていた。その芸術的かつ扇情的に縛り上げられたからだが、魔王へと助けを求めるように体を揺り動かしている。
「……えっと魔王、それは、その」
俺は、助けを求めるように遊び人を振り向く。すると遊び人は、まるで悪戯が見つかった幼子のように舌をぺろりと出した。
「勇者がやりました……」
「ばっ!いや、ちが……」
「ゆうしゃああああああああああああああああああああ!!!」
魔王の叫びに部屋が震える。魔王は、なりふり構わず俺へと身体をぶつけてきた。そのあまりの威力に、俺は部屋の壁に打ち付けられた。肺の中の空気が、衝撃で全て体の外へと吐き出される。俺は、片膝をつき何とか呼吸を整え、恐ろしいまでの黒いオーラを立ち上らせゆっくりと近づいてくる魔王へと呼びかけた。
「お、お義父さん! 誤解なんです!」
「お義父さんなどと呼ぶなあああああああああああああああ!」
魔王のパンチを、とっさによける。その拳は、さも当然かのように壁にめりこむ。
俺に、反撃に出るつもりは毛頭なかった。炎魔将軍との約束もあるが、なにより俺はもう魔王と争う理由がないのだ。だが、そんな俺の気持ちとは裏腹に魔王は遠慮なく俺の命を仕留めに来ている。
魔王の研ぎ澄まされたフックが、ボディへと突き刺さった。骨がきしむ音が、脳天まで届いてくる。その破壊力は、女神から授かった耐性の力を以てしても凄まじいダメージを俺へと与えた。
「娘を! 亀甲縛りなんぞにして! いったい何をするつもりだったんだ! この変態め!」
続けざまに、打ち放たれたパンチはその一つ一つが必殺の威力を有していた。俺は、それを辛うじて受け流す。もう一発でもダメージを受ければ、死に至らしめられる確信が俺にはあった。これまでの俺は、傷を受け、痛みに耐え、何度でも立ち上がり魔物たちとの戦いに勝利してきた。だが、魔王との戦いは別だ。傷を受ければ、痛みに耐えられるはずもなく、一度でも倒れればもう二度と起き上がれない。
これまで、感じることのなかった死の恐怖で、思わず歯が鳴った。
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