258: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/02(日) 20:04:54.85 ID:NZ43uSLl0
俺は、彼女にまかれたマフラーで彼女の目じりを拭いてやった。ズビズビ言っていたのだ、ついでに鼻もかんでやる。まるで子供をあやしているような、自身の様にふと笑みが零れ落ちた。そんな俺を見て、彼女もまた笑顔を見せる。
「勇者! うしろ!」
遊び人の声に、反射的に身体が反応した。彼女の頭を、懐深くに抱き、前方へと一回転する。片膝をつき、後方を振り返ると先ほどまで俺がいたところに大鎌の刃が突き刺さっていた。
大鎌を振るったのは、頭を失った彼女の体であった。ああ、そういうことかと俺は一人納得する。俺を心配する素振りを見せる一方で、殺しにかかってくるという妙に言動が不一致であったのは。頭と身体で、考えが一致していないからだったのだ。
「とりあえず、身体を止めるにはどうすればいい?」
地面に突き刺さった大鎌を抜くのにてこずっている身体をよそ目に、俺は遊び人の頭に問いかける。
「頭が気を失うなりすれば、体も止まるはずだけど……」
「締め落とそうにも首が無いんだぞ……どうすれば」
「そうだ! 勇者、壁まではしって!」
「壁? どっちの?」
「3時の方向! 早く!」
遊び人に促され、俺は身をひるがえし駆け出す。
ヒュンヒュンヒュンと風を切る音に、思わず身を伏せると頭上スレスレを大鎌が通り過ぎて行った。
「ひぃ!」
思わず、叫び声が出る。早くどうにかしないと、今度は俺が首なしになってしまう。
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