219: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/16(木) 21:50:26.69 ID:ao9AIwU40
だが、あの無類の酒好きがマスターの店にすら顔を出さないとすれば話は別だ。仮に、店で俺と鉢合わせるのすら避けたいと彼女が思ったとしよう。それでもなお我慢しきれずに、店にフラフラと飲みに来る。それが、あの遊び人という女なのだ。ましてや、半年以上も自分の意思で酒を我慢するなど天と地がひっくり返ってもありえない。そこに、第三者の介入があると推測するのはもはや必然であった。
「いえね、貴方の様子を見て、そのような気はしていたのですが、確証はありませんでしたので。こういった形になり、とんだ失礼を致しました」
「……俺の様子を見ただけで、そこまでわかるのか。流石マスターだ」
「……?あぁ、勇者様は普段から鏡をご覧にならないのですね」
「どういう意味だ?」
「酷い顔をしてますよ」
「シツレイな」
「いえ、そういう意味ではありません。目は腫れて、クマがはっきりと出ていますし、顔色も真っ青でまるで腐ったゾンビのようですよ」
人のことを言えた義理ではない。俺からしてみれば、マスターのほうこそ酷い顔だ。……いや、それだけ彼も彼女のことを心配しているということなのだろう。
「それに後頭部には大きなコブまで……あっ」
「コブ?」
確かに、マスターの言葉通り、後頭部にずきずきと痛みがあった。手で擦ろうにも、手枷がはめられていてうまくいかない。俺が、もぞもぞとしている前で、マスターは、何やら口笛を吹く素振りで視線をそらしている。
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20