遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」
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199: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/09(木) 21:58:24.09 ID:2o8X2YGF0
 魔王の秘密基地への奇襲攻撃は、十日後の深夜から明け方にかけて行われることとなった。司教の情報によると、基地内には魔王軍でも精鋭と呼ばれる魔物たちが溢れているらしい。当初は一人で乗りこむつもりだったが、司教の勧めもあって教会の僧兵たちを引き連れていくこととなった。その準備に日を要するとのことだ。手数が多ければ、魔物を逃がしてしまう恐れも少なくなる。断る理由はなかった。


 司教は、教会の宿舎に泊まれるよう手配すると申し出てくれたが、俺はそれを辞退した。久方ぶりに眠れない夜を過ごしたせいか、頭が割れるように痛く、重かったからだ。人の出入りが多い教会では、ゆっくり休むことは難しいだろう。俺は、街外れの安宿に部屋を取ることにした。

 
 宿のベッドに横になる。安宿だけあって、やたらに固いが文句は言うまい。今は、一刻も早く床につきたかった。宿に辿り着くころには、頭痛はさらに凶悪なものになっていた。


 そういえば、眠れない夜を過ごしたのはいつ以来だろうか。魔王を取り逃がし、一人で魔王を追っていた頃は、まともに睡眠をとれた日のほうが少なかった。そして、たとえ眠ることができたとしても、それは体力と精神が限界を迎えることで僅かな時間だけ意識が飛んでしまうもので、それは睡眠というよりも気絶に近かった。


 当時の俺は、そういう生活に慣れてしまっていた。魔王を取り逃がしてしまったことへの罪悪感や不安、焦燥感に苛まれることはあっても眠れないことは気にも留めていなかった。だが、こうして、たった一晩の徹夜だけで苦しんでいる自身の様子をみるに、それは勇者の耐性の力によるものではなかったのだろう。慣れることで、眠れない苦しみや痛みに鈍感になっていただけで、痛みは確かにそこにあったのだ。


 俺が、朝を清々しい気持ちで迎えられるようになったのは彼女と出会って、酒を飲むようになってからだ。


 酒には、俺の抱える不安や、のしかかる責任感を一時的に和らげる力があった。いや、今にして思えば、その力は彼女にこそ宿っていたのかもしれない。彼女と共に酒を酌み交わし語らう時間が、俺に安らぎを与えてくれていたのだ。


 ふと嫌な予感が頭の隅をよぎる。慌てて、教会からもらったワインを口に含む。。
 

 俺の鈍った感覚は、彼女と酒の力でどんどん鋭敏さを取り戻していった。これだけ聞けば、何か俺が強くなったかのようだが……。その結果がこれだ。わずか一晩徹夜しただけで、頭の中ではグアングアンと、まるでドラゴンの悲鳴のような重低音が鳴り響いている。俺はこの痛みと再び付き合っていかなくてはならないのだ。しかしまあ、恐れることは何もない。彼女だけでなく酒に酔うことすらも失った俺に、もう安息の夜など訪れることはないとしても。一度は慣れてしまったのだ、今度は二度目だもっと早く慣れるだろうさ。


 口の中一杯に、ワインの渋みと香りが広がっていく。
 


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