遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」
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200:今日はここまでです。いつもありがとうございます。 ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/09(木) 21:58:57.23 ID:2o8X2YGF0

 そう、要は「慣れ」なのである。耐性の力に頼らずとも、慣れてしまえば俺は大丈夫なのだ。彼女に逃げられてしまった悲しみにだって慣れてしまえばいいのだ。……いやまて、俺は逃げられたのか? いや、そうじゃないはずだ。あの晩、俺たちは確かに愛し合った。不手際か?俺が、知らぬうちに何かをやらかしてしまっていたのか?突っ込む穴を間違えた?いやまて、だったら、彼女のことだ笑いながら許してくれる……はずだよな? いやいや、仮にそうだとしても。彼女が怒り心頭したとしてもだ。俺の前から、書置きすらなく急に消えることなんてことはないだろう。逃げられたというのは、妥当な推論から最も遠いところにあるはずだ。ならば、なぜ彼女は姿を消したというのだ。……第三者に攫われたとか? いや、いくら俺が女にうつつを抜かしていたといっても、寝ている隙に女を攫われて気づかないはずがない。伊達にも勇者なのだ、そこまで無能を晒すほどやわな男ではない。では、やはり、彼女は自身の意思で……。


 ああ、だめだ間に合わなかった。遂に、喧噪の夜が始まってしまった。そう、これだ。不安や不満、焦りや怒り。俺の中にあるありとあらゆる負の感情が、俺の意思とは関係なく思考の滑車をくるくるとまわすこの感じだ。止まらない思考から生み出される推測や、憶測は、更なる不安を呼び、その不安がまた思考を回させる。これが始まったら、もうおしまいだ。今晩もまた、俺は眠りにつくことはないだろう。


 慌ててワインを口に含んだところで、それを防ぐことなどできようがなかった。俺はもう、酒に酔うことはできないのだから。


 なんとか朝を迎えるが、疲れは一向にとれていなかった。それどころか、ドラゴンの悲鳴が魔王の断末魔にクラスアップしている。いつか聞きたいと願っていたが、こんなところで耳にすることができるとは実に僥倖僥倖。魔王の野太く響く声が実に心地いい。なんとなしに剣の鞘を抜くと、目の下に確りクマができていた。


 久しぶりの故郷ではあるが、散歩に出かけるような気は起きなかった。魔王の基地を襲撃するまであと六日。俺は、宿にこもり少しでも体力を温存することにした。


 五日目の深夜、俺は遂に限界を迎えていた。意識は朦朧とし、頭痛は常人なら殺しうるほどの鋭さを得、目の下のクマは顔全体を覆うほどに広がっていた。だが、それでもなお「気絶」ないしは「睡眠」に落ちることはできていない。

 ただ、俺は眠りたいだけなんだ。体を休めたいだけなんだ。どうして、こんな簡単なことができないんだ。かつての俺は、この苦しみに耐えきり、慣らしてしまったというのが信じられない。信じられないが、俺は成しえたのだ。為せば成る、為さねばならぬ何事も。……何が成しえただ。魔王討伐という勇者最大の責務を果たせない男が、何をもってして何事かを成しえたというのだ。笑える。実に滑稽な話だ。


 いつものように、回りだした思考が俺の眠りを妨げる。


 あぁ……こんな眠れない夜を……かつて俺はどう過ごしていたのだっけ……。
 この苦しみをどうやって乗り越えたのだったか……。


 ああ、そうか。


「……眠れないのなら、眠らなければいい」


 俺は、ベッドから這い出て、剣を腰に差し、クロークを身にまとっう。
 足元がふらつき、視界がぐるんぐるんと回っているが、これが酔いのせいではないことは確かだった。


「じゃあ、仕事にとりかかろうじゃないか」


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