176: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/03(金) 16:30:29.14 ID:KfriHW7I0
ふむ、手詰まりだ。
自身の魔法への知見が浅いとは思わないが、これだけ複雑の条件付けが為されているとお手上げだ。
少なくとも、酒が入っている状態で取り組むべき問題ではない気がしてきた。
俺は、再びカウンターを乗り越え客側へと戻った。
当然のことだが、俺の酒は彼女の隣に置かれたままだ。正直なところ、気まずさから席を一人分空けたい気分ではあるが。
それでは、俺が逃げたみたいで実に情けないではないか。
俺は、覚悟を決め彼女の隣へ座った。
彼女の手元にあるものと同じ、強い赤みを帯びた琥珀色の酒に口をつける。
マンハッタンといったか。いったいどういう意味なのだろうか。
「アタシは、マンハッタンが一番好き」
「甘くて、芳ばしくて。それに、最後に口に放り込むチェリーがたまらないの」
俺も、もともとはあまり甘いものが好きというわけでは無い。
だが、ウイスキーが放つ香りと混じり合っているせいか、このカクテルの甘さは俺にあっていた。
「たまには、甘い酒も悪くないな」
「あらあら、気取っちゃって」
横目に、彼女をチラリと見る。
彼女の頬は、いつになく赤く染まっていた。
彼女がこんなに酔っているのをみるのは初めてだった。
だが、そこには確かに更に赤黒い一筋の線が見て取れる。
モヤモヤとした薄暗い感情に、俺は視線を正面に戻される。
「キミがこんなに酔っているのは初めて見た。体調でも悪いのか」
「嫌なことがあったから飲みすぎちゃった」
「俺が、帰った後もずっと飲んでたのか?」
「たぶんそう」
先日とは打って変わって、彼女は素直に見える。これもまた、酒の力であろうか。
冷静に話をするなら、今がいい機会なのかもしれない。
この間の話の続きを、するべきなのであろう。
それは、魔王を見つけた時の取り扱いであり、彼女がひたすらに隠す彼女自身の素性についてであり。
そして、最も重要なのは魔王探索の最前線から彼女に退いてもらうことである。
彼女の説得の困難さを鑑みると、どうにも気が重くなってきて自然と眉に皺がよってくる。
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