遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」
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175: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/03(金) 16:30:00.04 ID:KfriHW7I0


……って、俺は阿呆か。なんて無駄な思案を巡らせていたんだ。
今、この場において問題は既に解決されたも同然ではないか。なんたってここには、千鳥足テレポートを開発した大賢者がいるのだから。


「ムダよ……アタシが何の手段も講じずに、ここでカクテルを楽しんでいたとでも思うの?」


表情から、俺が何を考えているのか察したのだろう。遊び人が、水を差してくる。
……いや、キミの場合、それが十分にありえるのだが。


「残念ですが。これはあなた方の問題でしょう。私が口出しするのは野暮ってものですよ」


遊び人の言葉を裏付けるように、マスターは俺に釘をさしてきた。
しかし、その口ぶりからは、マスターは問題の原因に既に思い至っていることが伺い知れた。


「ご注文はお決まりですか?」


正直、酒を飲みたいという気分ではなかった。
だが、バーに来て一杯も飲まないなんて選択肢はありえないだろう。
俺は少しだけ考えて、彼女と同じものを頼むことにした。


マスターが酒を作っている間、俺は何とかマスターから情報を引き出せないものかと考えた。
そうした気配を感じ取ったのか、マスターは先日とは比べ物にならないスピードでカクテルを作り上げてしまった。


「マンハッタンでございます」


やはり、なみなみに注がれたグラスが、その中身を一滴も零すことなく遊び人の隣の席へと運ばれる。
マスターの心遣いなのかもしれないが、どうにも面倒なことをしてくれる。
彼女の隣に腰を下ろしていいものか、俺が逡巡していると。
マスターが「おっと、これはしまった。氷を切らしてしまいました。少し出てきます」と、わざとらしいセリフを残して店を出て行ってしまった。


今しがた、マスターが店を出て行った扉に目をやる。
カウンターの向こう側、酒が並べられた棚の横に設置されたその扉は、俺の腰の高さほどしかない。
まるで、童話に出てくる小人たちが拵えたもののようだ。

帰還術式が使えないなら、この店から直接外に出ればどうなるのだろう。
店を改めて見回すと、カウンターのこちら側、すなわち客が座るであろうスペースには一つだけ扉が設置されていた。
マスターの使っていた扉とは違い、こちらはごく普通のサイズだ。
開けてみると、中にはさらに扉が一つ。さらにそれを開けてみると、中はただの便所だった。

マスターの言っていた言葉を思い出す。ここは、千鳥足テレポートでしか来れない店。
つまるところ、客が出入りする扉はそもそも設置していないのだ。そこに、マスターの店の秘匿性を徹底的に守るという強い決意が感じられる。
ならば、と俺はカウンターを乗り越え、今しがたマスターが出て行った扉に手をかける。
鍵がかかっているわけでは無い、だがどんなに力を入れようとドアノブはピクリとも動かなかった。
このドアノブの硬さは物理的なものではない、魔術的な何かだと考えるのが妥当だろう。

千鳥足テレポートは、その帰還術式以外での帰還は絶対にできない。そういうことなのだろう。


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