160: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/04/07(日) 14:15:32.55 ID:NdD66LHM0
彼女の怒りが頂上へと達するその瞬間、まるで「私のことを忘れていませんか」と言わんばかりにマスターがグラスを二つ差し出してきた。
「お待たせしました」
俺と彼女の前に、届けられたグラスにはそれぞれ透明の液体がなみなみと注がれていた。
「これは何だマスター?蒸留酒か?」
「中身はただの水でございます」
「誰がこんなの頼んだって言うの!ふざけないでよマスター!」
突如、全身に悪寒が走った。
手が震え、足が震え、視界が泳ぎ、歯がかみ合わずにガチガチとなりだした。
酔いではない、勇者の持つ耐性で酒に強くなった俺がこんなにわかりやすく酔うはずがない。
隣では、遊び人もまた同じ症状に襲われている。
「申し訳ありません。そろそろ店じまいしようかと」
マスターは、その笑みを崩すことなくグラスを磨き上げ続けている。
だが、言葉や表情とは裏腹に彼のオーラが「喧嘩は外でやれ」と雄弁に物語っていた。
流石、先代魔王と言ったところだ。この勇者である俺をして、ここまですくみあがらせるとは。
いや決して、決して恐れをなしたわけでは無いが俺は慌てて席を立つ。相変わらず、足がガクガク震えているがこれは酔いのせいだ。
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