144: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/03/27(水) 20:21:18.90 ID:DIeGWH8y0
「それね、私も言ってるのよ。この店って来るのが大変だから、ほかにもカクテルが飲める店が欲しいって」
「禁酒法下にあるこのご時世に酒の文化を一歩前進させるなんて反社会的で格好いいじゃない」
「まあ、これだけ画期的な酒なんだ。他には漏らしたくないという気持ちもわかる」
「いえ、カクテルを独り占めしたいというわけでは無いんです」
できあがったカクテルを静かにグラスへと移していく。
グラスにはオリーブの実が沈められている、美しい緑色がマンハッタンのチェリーとはまた違う雰囲気を醸し出している。
グラスの淵に盛り上がるほどカクテルが注がれていく。あんなに並々に注がれていては、持ち上げて飲むことなんてできないんじゃないだろうか。
ましてや、酔ったこの身ではなおさらだ。
溢れんばかりのグラスは、マスターによって一滴も零されることなく俺の手元へと運ばれてくる。
その手際からは、少しでも動かせば零れるのではないかという危惧を一切感じさせない。
「ドライマティーニです」
案の定、持ち上げようとして少しだけこぼしてしまった。
こういうところでスマートにこなせない自分が嫌になる。
マティーニを口に含むと、強く、しかし爽やかなアルコールがそんな嫌気を払ってくれるようだった。
この青臭さはオリーブだろうか?いや、それだけではない。僅かではあるが、何か他の香りが混じっている。
「ドライですので、ほとんどストレートに近いですよ。如何でしょうか?」
「うまい」
率直な感想しか出てこない。
酒を零してしまったことといい、どうも俺は気取った動きというのが苦手なようだ。
まあ、隣に座っている女はそんなこと一切気にしないのであろうが。
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20