143: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/03/27(水) 20:20:51.86 ID:DIeGWH8y0
「おやおや、つい長話を……失礼いたしました」
マスターが手持無沙汰にグラスを磨く。
グラスからは、乾いた音がした。
「さて、仕事に戻りましょうか。お次は何にいたしますか」
「マスターに任せる」
「それでは、勇者様はお酒に強そうですので少し強めの物をご用意いたしましょう」
マスターの話を聞いたからだろうか、俺はマスターの仕事に少し興味が湧いたようだ。
俺は、カクテルが作られる様子を観察することにした。
マスターは少し大きめのグラスを用意し、その中に氷を敷き詰める。
その氷は、先ほど刻んでいた球形のものとは違い荒く大きく削られたものだった。
ふと、そこでマスターの手が止まる。
訝し気に、マスターに目を向けるとうっかり目が合ってしまった。
マスターはにっこりと笑顔を返してくる。
「しかし、こんなにうまい酒を出す店ならもっと大きくすればいいのに」
壮年の男と見つめあうことに耐えきれなくなった俺は、適当に話を持ち出した。
「でなくても、弟子をとって店を増やすとか」
「ええまあ……」
マスターの返事はどうにも歯切れが悪いものだった。
しかし、その言葉とは裏腹にマスターの手はよく動いている。
流れるような手つきで、棚から大小入り混じった酒瓶を取り上げてカウンターにならべる。
それらを少量ずつグラスへと放り込み、5寸ほどある金属の棒でかき回す。
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