130: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/02/21(木) 23:36:21.32 ID:Fom+zo150
独特の低さを持ちながらも透き通った力強く優しい声。
違う……姿かたちはよく似ているが、声が違う。
あいつの、魔王の声はもっと威圧感に溢れ。まるで自らの力を誇示するかのようなものだった。
ならば目の前の、魔王によく似た男は魔王と同族。もしくは、近しい親類といったところだろうか。
「お前は何者だ……?」
「マンハッタン」
俺を無視して、遊び人が謎の呪文を呟いた。
隣を見ると、彼女は気だるそうに頬杖をつき指を一本立てている。
「『いつもの』ですね、畏まりました。それで、そちらは?」
こいつら、俺の質問に全然答える気がないんじゃないかという怒りもあるが、状況を理解していないのはどうやら俺一人であることを考えるに。
今は、状況に流されるのが正解への近道だろう。
というか、『マスター』って店の主人のほうかよ……!
勘違いからくる若干の恥ずかしさに頬を染めながらも、俺は男の言葉を無視して部屋をぐるりと見渡す。俺たちがいる部屋は、それほど広くなくカウンターに席が6つほど。俺の後ろには、小さな丸机と椅子が二つ。
席が埋まったとしても8名しか客が入らない。どうやら、かなり狭い店らしい。
足元すら怪しい暗さであるが、僅かな光によって作り出される影が妖しく室内を飾っているのを見るに意図的に照明の数を減らしているのであろう。
カウンターの向こう、魔王によく似た男の背には見たこともない多種多様な酒瓶が並んでいる。
そのほとんどは、見たことのない未知の言語で書かれたラベルが張り付けてある。
今まで、さまざまなスピークイージーを見てきたがこんな奇妙な店は初めてだった。
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