99: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:40:47.67 ID:Y+SAhLWq0
「……楽しかったことを思い出せばいいんでしょうか」
「思い出すんじゃなくて、そのとき楽しむ、かな?」
「よく……わかりません」
夕美さんが「ううん」とうなる。それから、ひとくちサイズに切ったパンケーキをフォークに刺し、私に向けてきた。
意図はわかるんだけど、これは……
「あの……恥ずかしいので……」
「うん、私もこの状態はちょっと恥ずかしいから、できれば早く食べてほしいな」
……引っ込めるという選択肢はないんでしょうか?
周囲を気にしながらこそこそとフォークに顔を寄せて、先端に刺さったパンケーキを口に含む。ほのかにレモンの匂いがした。
けっこう厚みがあるかな、と思いながら歯を立てる。生地の香ばしさとメープルシロップの甘さとチーズの風味が口の中でひとつになり、するすると消えていく。本当に消えた。
あぜんとした。私は飲み込むという工程をとっていない。なのに、ひと噛みしたパンケーキは、まるで魔法のように口の中で溶けてなくなった。
「……おいしい」
思わず、そうつぶやいていた。
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