98: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:39:23.50 ID:Y+SAhLWq0
カップを口元に近づけると、ぽわんと不思議な香りがした。
カモミール、お花の見た目はわかるけど、匂いがこんな感じだったかというと、ちょっと自信がない。だけど、嫌いじゃない。
そっとひとくちすすってみる。味はほとんどない。ふつうの紅茶や緑茶と比べるとお湯みたいなものだった。そのぶん、お茶類特有の渋みもなくて香りの邪魔をしない。きっとそういう楽しみかたをする飲み物なのだろう。
「どうかな?」
と夕美さんが問いかける。
「苦手な人はすごい苦手らしいんだけど、ほたるちゃんは平気?」
「はい。私これ、好きです」
「よかった」
夕美さんが輝くような笑顔を見せて、私はつい見惚れてしまいそうになった。
夕美さんはいつも笑っている。周子さんや志希さんもよく笑うけど、夕美さんはその比じゃない。もはや地顔が笑顔なのではないかと思ってしまうほど、いつだってほほ笑んでいる。
「笑うって、どうやるんですか?」と訊ねてみた。
夕美さんがわずかに首をかたむける。
「えっと……私、笑顔というものが苦手で、夕美さんは、どうやってるのかなって……」
「うーん、同じようなことけっこうよく訊かれるんだけどね、実はよくわかんない」
「わからない?」
「うん、私は笑おうと思ってないから」
私は当惑した。笑おうと思ってないのに、いつも笑ってる?
「楽しくもないのに笑わなくていいよ。自分が楽しめば、自然に笑えると思うよ」
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