白菊ほたる『災いの子』
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96: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:36:28.82 ID:Y+SAhLWq0
 ばいばい、と猫に手を振って再び歩き出し、夕美さんが足を止めた場所はオープンテラスのカフェだった。
 建物の中と屋外、それぞれにだいたい半分ずつ席が設けられている。

「よかった、空いてるね」

 夕美さんがスキップするような足取りで入口をくぐる。
 そこはお店の構え、インテリア、店員さんの物腰にいたるまで、すべてが高いレベルで洗練されていて、自分ひとりではまず気後れして入れないようなお店だった。もっとはっきり言うと、『高そう』だった。

「いいお天気になってきたし、テラス席でいいかな?」夕美さんが問いかける。

「おまかせします」と答えた。

 案内された席に着く。雨が上がったのを見てすぐに拭いたのか、椅子もテーブルも、少しも濡れていない。メニューを置いたウエイターさんが分度器で測ったようなお辞儀をして離れていく。

「夕美さんはこのお店、よく来るんですか?」

「うん、最近見つけてね、気に入ってるんだ。私はもう決めてるから、メニューはほたるちゃんが見ていいよ」

「はい、じゃあ私は……」

 メニューを開く。予想はしていたけど、どれもお店に負けずなかなか立派なお値段をしている。……飲み物だけでいいかな。

「夕美さんは、なにを?」

「パンケーキと、今日はカモミールティーにしようかな」

「じゃあ、私もカモミールティーで」

 夕美さんが片手を上げ、ウエイターさんに注文を告げる。

「あの……今日は、どうして私を呼んだんですか?」

 再度ウエイターさんが去っていったところで、私はおずおずと訊ねた。
 今日のことは楽しみでもあったけど、なにか特別な話があるんじゃないか、レッスンでなにか至らないところがあっただろうかと不安でもあった。

「ほたるちゃんと遊びたかったから」

 夕美さんがこともなげに答える。
 なにか続く言葉があるのかな、と待っていたけど、夕美さんはなにを言うでもなく、にこにことほほ笑んでいた。


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