95: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:35:17.93 ID:Y+SAhLWq0
待ち合わせ場所を指定したのは夕美さんで、目的地は聞いていない。私は夕美さんの隣を半歩ほど遅れて歩いていた。そこに、細い路地からぴょこんと真っ黒い猫が飛び出してきた。
よりによってこの日にかと、ため息をつきたくなった。
「あ、ほたるちゃん、猫!」
夕美さんが無邪気な声を上げる。
「首輪してないね。珍しいね、東京で野良猫って」
「そうでもないですよ」と私は言った。「だいたい3日に1回は見かけます」
「……ほたるちゃん、猫嫌い?」
「いえ、嫌いじゃないですけど……」
夕美さんがしゃがみ込んで猫のあごの下をなでる。猫がゴロゴロと喉を鳴らした。
「私はけっこう動物寄ってくるほうだと思うんだけどね、私のプロデューサーさんは、なぜか動物に嫌われやすくて、よく襲われてるんだ」
「襲われ……?」
「ほたるちゃんは、そういうことはない?」
「ええと……さすがに、襲われることはないです」
夕美さんが顔を上げて私にほほ笑みかける。
「じゃあ、ほたるちゃんは猫に好かれてるんだね」
猫が夕美さんの視線を追うように振り返って、私の足に頭をすり寄せてきた。おそるおそるなでてみると、猫は気持ちよさそうに目を細めた。かわいい。
好かれているなんて、考えたこともなかった。だけど、そう思ってみると、よく猫と出くわすというのも、そんなに悪いことじゃないのかもしれない。
……たまには、真っ黒じゃない子とも会ってみたいけど。
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