7: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/04(金) 23:16:04.73 ID:GasL4mJG0
家族にも内緒で小さな芸能プロダクションのオーディションを受け、数日後に合格の連絡が届いた。それから三日三晩かけて必死に両親を説得し、知り合いのひとりもいない東京で生活を始めた。
これで私もアイドルだと、胸をときめかせて。
だけど現実はそんな甘いものじゃなかった。故郷を離れても、芸能事務所に所属しても、私の不幸は止むことはなかった。
最初に所属したプロダクションはたびたび空き巣被害にあい、事務所が火災で半焼して、最後は従業員がお金を持ち逃げして倒産した。
当時のプロデューサーさんが紹介状を書いてくれて、私は他の事務所に移籍することができた。
移籍した先のプロダクションは、あまり経営がうまくいっておらず、ある日訪れたら入り口に、『倒産しました』と張り紙が残されていた。社長が脱税容疑で書類送検されていたことは後で知った。
私はすぐに別のプロダクションを探して、所属オーディションを受けに行った。
契約には保護者の同意がいる。移籍をするたびに私は実家に書類を郵送し、電話をかけた。
電話に出た母に、不安を感じさせないように事務的な口調を作って、「別のプロダクションに移籍した、書類を送ったから記入して返送してほしい」と伝える。
あまりに短い間隔で移籍を繰り返す私に、きっと言いたいことはたくさんあったと思う。だけど母はいつも私の説明に淡々と相槌を打ち、最後に「寂しくなったら、いつでも帰ってきていいからね」とだけ言った。
「だいじょうぶ」と答えるときだけ、いつも涙がこぼれそうになった。
本当はいつだって寂しかった。帰りたいなんて、毎日のように思っていた。
だけど、まだあきらめたくない。もう少しだけがんばりたい、がんばらせてほしい。
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