69: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/23(水) 17:54:09.32 ID:XzeV2oVA0
「久しぶりだな」
聖さんがニヤリと笑う。
私が聖さんのレッスンを受けるのは、346プロにきて最初のレッスン以来だった。
後になってから知ったけど、そもそも聖さんは通常は新人のレッスンなんて受け持つことはない。あのときは、プロデューサーさんの依頼で特別に、ということだったらしい。それ以降は、聖さんの妹の慶さんや明さんが私のレッスンを担当していた。
聖さんの笑みは、「あれからどう変わったか見せてみろ」と言っているように見えた。
私は、改めて部屋の中を見回した。
整った設備、適切な指導、レッスンに打ち込むための、最高の環境がここにはある。
もうなにも言い訳はできない。なにのせいでもない。これでダメだったら、私自身がダメなんだ。
ゆっくりと息を吸い、吐く。
「お願いします」と私は言った。
そして、案の定というべきなのか、聖さんの叱責の声が飛びに飛んだ。
声が小さい、テンポが遅れている、表情が固い、足元を見るな、指先までしっかり伸ばせ、と。
指摘されたところを修正しようとすると、別のどこかがおろそかになる。聖さんはそれを見逃さず、即座に指摘の声を飛ばす。それをずっと繰り返した。
「よし、そこまで」
予定の曲をひと通り終えて、聖さんが言った。
「……すみませんでした」
私は息を切らせながらつぶやいた。
「なにを謝ってる?」
「私だけ……ぜんぜんダメで」
聖さんが「ああ」と納得したような声を漏らす。
「現時点でそれだけできていれば十分だ。気にしなくていい――というよりも」
聖さんが壁際で休んでいるふたりに目を向ける。
「……白菊ぐらいのほうが、こっちもやりがいがあって助かるな」
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