67: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/23(水) 17:51:01.88 ID:XzeV2oVA0
「では次、相葉」と聖さんが言う。
「はいっ」と元気よく答えて夕美さんが立ち上がる。入れ替わりに志希さんが腰を下ろし、そのままこてんと横になった。
夕美さんが、さっきまで志希さんが踊っていたところでトーントーンと飛び跳ねる。リズムを取っているようにも見えたし、体をほぐしているようにも見えた。
聖さんがオーディオを操作し、音楽が流れ始める。
夕美さんが控えめなステップを踏み、少しの間をおいて、澄んだ歌声が響き渡る。
空気が一変した。
私は不思議な感覚を覚えた。
まるで自分が今、色とりどりのお花が咲き乱れる草原にでも立っているような錯覚。
室内にいるはずなのに、降り注ぐ陽光のあたたかさを感じ、そよ風が肌をなでる感触まで伝わってくるようだった。
夕美さんは志希さんとは違い、歌に特別なアレンジはしていない。CD音源を忠実に再現するように、正確なリズムと音程で声を響かせていた。
一方で、ダンスは少し変わっていると感じた。急な動き出しや停止というものがなく、流れる水のように、常に動いている。歌の振り付けというよりは、日本舞踊かなにかみたいだった。全体的にゆっくりに見えるのに、不思議と曲に遅れることはない。
1曲目が終わる。聖さんは特になにも言わずに次の曲を流した。
どくんどくんと、自分の胸が高鳴るのを感じる。
志希さんが私に向けてなにか言ったような気がしたけど、耳には入ってこなかった。
私はまばたきをするのも忘れて、夕美さんに見入っていた。
歌もダンスも、もちろんすごく上手い。だけどそれだけじゃない。
この人は、なんて楽しそうに歌うんだろう。
歌うことが大好きで、心の底から楽しいと思っているのが、その声や表情からあふれ出していて、なんだか、見ている私まで、幸せな気分になった。
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