白菊ほたる『災いの子』
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66: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/23(水) 17:48:36.90 ID:XzeV2oVA0
 どういう意味だろう? と思ったけど、ちょうど音楽が流れ始めたので、私は見学に集中することにした。

 志希さんはどうやら歌にアレンジを加えているようだった。ところどころ音程やリズムをわざと崩していたり、間奏部分でスキャットを入れたり、歌詞も一部変えたりしている。それでいて楽曲としての質は損なわれていない。

 さすがに歌もダンスもレベルが高く、私は思わず感嘆の息をついた。志希さんは軽々とこなしているけど、あれは相当に難しいだろう。

「一ノ瀬、振り付けが違う」

 最初の曲が終わったところで、聖さんがあきれたようにつぶやいた。

「あれ、そーだっけ? どこが違ったかにゃ〜?」

 志希さんがとぼけたように言って、聖さんが深いため息をつく。

「ぜんぶ違う」

 ぜんぶ?

「……あの、違うというのは?」

 私は小声で夕美さんに問いかけた。

「即興だね、あれ」

 夕美さんが答える。
 即興――ダンスにもアレンジを加えていたのだろうか?

「あの曲の本来の振り付けはあるんだけどね。ぜんぜん原型とどめてないよ」

「私には、ちゃんとした振り付けに見えましたけど……」

「うん、あれ志希ちゃんが今考えたんだね」夕美さんが言う。「それで、同じのは二度とやらないの。もったいないよね」

 それから1曲終えるごとに聖さんが苦言を呈した。「それではレッスンにならない」と。
 信じがたいことに、志希さんはすべての曲にオリジナルの振り付けを当てているらしい。私の目には、そのどれもが甲乙つけがたいほど完成度が高く見えた。
 夕美さんによれば、それらは全て『その場』で考えて踊っているという。本当に、そんなことが可能なのだろうか?

 聖さんは、途中からはもうなにも言わず、ただ複雑そうな顔で志希さんのパフォーマンスを眺めていた。


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