47: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/16(水) 19:23:03.67 ID:sFL9uHdg0
05.
346プロに入ってから頻度は少なくなったけど、今でもときどき夢を見る。
内容は変わらない。みんなが「お前のせいだ」と私を責めたてて、私が「ごめんなさい」と繰り返す。変わったのは、『みんな』に前の事務所の人たちが加わったことだ。
夢から覚めると、いつもびっしょりと汗をかいていた。
部屋のバスルームに入って汗を流し、鏡を見る。
暗い、よどんだ顔が映っている。
ぱんっと両頬を手で叩く。
――暗い顔をしてたらオーディションの印象が悪くなる。気合いを入れなくちゃ。
オーディションやお仕事の際の移動は、いつもプロデューサーさんといっしょだった。
プロデューサーさんは前もって現場への道のりを詳しく調べ、起こり得る交通機関のトラブルの予測と、移動の代替手段を考慮している。その上で、私から見ても過剰と思えるような余裕を持って出発する。それでも間に合わないことはあったけど、それは時間の問題ではなく、なにをどうしてもたどり着けないような状況のときだった。
無事に到着してオーディションが始まっても、私の番で機材が不調になることがよくあった。
プロデューサーさんが前もって、「なにかあっても審査員に止められない限りは続けろ」と指示を出していて、私はそれに従った。「もう一度頭から」とやり直しをさせてもらえたこともあったし、そのまま最後まで続けて合格をもらえることもあった。
また、まれに大手の強みともいうべきお仕事が舞い込んでくることがあった。
人気のあるアイドルは黙っていてもお仕事の依頼がやってくる。ただし、スケジュールの都合が合わなかったり、目指す方向性との齟齬があったりで、断ることも珍しくない。
そんなとき、346プロではその仕事に向いていそうな別のアイドルを紹介する。思惑はいろいろあるのだと思うけど、クライアントは紹介されたアイドルをそのまま起用することが多かった。この形のときはオーディションもなにもなく、即座に起用が決定となる。
私も何度か紹介でお仕事をもらった。特に深夜のテレビドラマで、悲劇のヒロイン役をやらせてもらったときは、関係者全員がびっくりするぐらいの好評を得た。
日々がゆっくりと流れていった。
私はたくさんのレッスンを受け、たくさんのオーディションを受けた。
そうして、少しずつだけどお仕事が増えていった。
でも、こんなものじゃ、ぜんぜん足りない。
202Res/248.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20