177: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:54:10.10 ID:1DFdeF0E0
「うん、まず幸せってなんだろうね? 美人の奥さんとかわいい子供がいて、お仕事でもそれなりの地位についててお金に困ることなんてない。そんな一見して恵まれている人でも心の内はストレスの塊で、毎日『死にたい』って思いながら生きているなんてこともある。一方で、家族とはすっかり疎遠になって、恋人もいなくて、自由に使えるお金もほとんどない。それでも人生が楽しくて仕方がないなんて人も珍しくない。幸不幸なんて主観だよ、はたから見てわかるもんじゃない。ほたるちゃんがウチに来る前、所属してた事務所がいくつか潰れたんだってね。たくさんの人が職を失ったね。借金を抱えた人もいるだろうね。でもそれは本当に悪いこと? 転職した人はそのあとどうなるかな? それをきっかけに実家の家業を継ぐなんて人もいるかもしれないね。もしも潰れなかった事務所で勤め続けた場合と、どっちが幸せなのかな? 答えは『わからない』だよ。たくさんの人が関わってるんだから、結果なんてひとそれぞれ。もちろん不幸になる人はいるかもしれないけど、それで幸せになる人もいる。だから会社の倒産なんてのはただの出来事で、ひとまとめにいいとか悪いとか決めつけていいことじゃない」
話しながら、志希さんはじっと観察するように私を見ていた。私は戸惑ってしまい、どうしたらいいのかわからなかった。
「それからもうひとつ、単純な不幸だとは思えないところがある。人間はたやすく死ぬ。毎日どこかで、不慮の事故で亡くなってる人がいる。特別運の悪い体質なんて持ってない、ごく普通の人がだよ。もしも無差別に悪いことを引き寄せてるんなら、ほたるちゃんは今、生きているわけがない。ねえ、ほたるちゃんて、身近な人がバタバタ亡くなったりするの?」
「えっと……いえ、命にかかわるようなことは……」
志希さんがうなずく。
「うん、やっぱりね。それはなにかの方向性があるんだよ。それがどんなものかはわからないけどね。たとえばこれはひとつの可能性なんだけどさ、ほたるちゃんが不幸だと思ってるその体質は、本当は、人を助けてるのかもしれないよ」
202Res/248.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20