162: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:33:13.09 ID:1DFdeF0E0
出てきたはいいけど、なかなか始まらない。ほたるちゃんはマイクスタンドの前で石像のように突っ立ったままだ。
客席が静かになるのを待っているんだとすれば、それは無理ってもんだ。これは放っておいて静まることはない。むしろお客さんたちは困惑を深めて、ざわめきは一層大きくなっている。
そのとき、ふいにほたるちゃんが、にこりとほほ笑み、あたしはぽかんとしてしまった。
意表を突かれたのはあたしだけじゃないらしく、喧噪がすっと吸い込まれるように静まる。その一瞬の隙を突くように、ほたるちゃんがアカペラで歌い出した。
細い、透き通るような声がホールにこだまする。
この場にいる人たちなら誰でも知っている、夕美ちゃんの代表曲だ。
ワンフレーズ後から音楽が流れ出し、同時にほたるちゃんがステップを踏み始める。
羽織の菊の模様が、ライトを反射して色とりどりに輝く。
客席でぽつぽつと黄色い光が灯り、リズムに合わせて揺れ始める。せっかくだし、あたしも振っとこう。
曲が終わり、静寂がおとずれる。
ステージのほたるちゃんが不安そうにたたずんでいる。
少し遅れて、喝采と拍手がホールを満たした。
ほたるちゃんがほっと胸をなでおろし、大きく手を振って、笑った。
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